サラリーマンでも経営者としてのキャリアが手に入る「事業承継婚活」とは

キャリア
日本の企業の3分の2は後継者不在に悩んでいます。それを「娘婿=準同族」を探してきて解決しようとするのが「事業承継婚活」で、マッチングを手がける企業が現れています。独身で、経営者になりたい、起業したい男性にとっては選択肢の一つになりそうです。
2019.6.14

後継者難は深刻でも子供に継がせたい本音

日本の中小企業は、後継者難が深刻です。
帝国データバンクが2018年11月に発表した「全国後継者不在企業動向調査」(全国約27万6,000社対象)によると、後継者不在率は66.4%と全体の3分の2にのぼります。同じく帝国データバンクが2019年4月に発表した2018年度の倒産数のデータによると、後継者不在のまま代表者が死亡したり病気になったために事業を継続できず倒産した「後継者難倒産」は420件で、2017年度の342件から22.8%も増えて過去最悪水準でした。中小企業庁は、2025年には日本企業全体の3分の1の約127万社が後継者不足で廃業するリスクに直面すると試算しています。
「全国後継者不在企業動向調査」によると、調査対象企業の現在の社長の34.7%は創業者で、40.3%は社長職を家族から受け継いだ同族承継でした。後継候補の選定が済んでいる企業は約9万3,000社ですが、その候補で最も多いのは「自分の子供」で39.7%でした。2016年以降に事業承継が判明した企業約3万5,000社のうち36.0%は、同族承継で後継者にバトンタッチをしています。
そこには「次期社長は古参社員の中から抜擢したり外部から人材を招くよりも、自分の家族、特に子供に継がせたい」という中小企業経営者の本音がのぞいています。
子供が「自分は後継者になる」と意識して親の会社に入り、しっかり「帝王学」を学んでいるなら安心でしょう。しかし、子供がいなかったり、子供が後継者になるのを嫌がったり、適性や素行の問題などで子供を後継者にしたくないと思っている場合もあります。建前では男女平等でも、残念ながら子供が女の子だと、社長はその娘を後継者とは考えていないケースが大多数です。
その場合、期待するのは結婚相手の「お婿さん」を後継者にすることです。生まれた孫が次の次の後継者になれば血はつながるので、養子縁組をしていなくても娘の結婚相手は同族に準じた扱いになるでしょう。

「事業承継婚活」サービスに参入企業続々

「婚活」というと、ふつうは「恋人探しの結婚まで考えている真剣バージョン」で、自立した大人の男女1対1のマッチングです。しかし、後継者が決まっていない中小企業経営者の娘のお婿さん探しは、オーバーに言えば「会社の存亡をかけた後継者問題の解決」を兼ねているので、親も真剣です。結婚相手の家柄や学歴や職歴や性格だけでなく、経営者としての才覚があるかどうかも問題にしたりするので、ただの婚活とはわけが違います。
しかし、たいていの大手婚活サービス会社では、そんな事情があると「本人同士はよくても、親がうるさく口出しして話をぶちこわすのでは」と敬遠したり、入会させても紹介に慎重になるなど持てあまし気味でした。それでも最近の深刻な後継者難でニーズは高まっているのか、積極的に後継者問題の解決を兼ねた「事業承継婚活」をサービスメニューに加える婚活サービス会社が現れています。
しあわせ相談倶楽部(本社・東京)は企業経営者と関係が深い公認会計士事務所が始めた婚活サービス会社ですが、その名も「事業承継婚活」を展開しています。
人材サービス業ヒューレックスの子会社のマリッジパートナーズ(本社・仙台市)は、ヒューレックス、事業承継推進機構、地方金融機関などと提携し、主に東北、北海道地域の中小企業オーナー向けに事業承継婚活のサービスを提供しています。地銀では七十七銀行、常陽銀行、山形銀行、秋田銀行、北海道銀行、清水銀行などと提携していて、後継者難、事業承継へのニーズは婚活ビジネスでもチャンスになるととらえています。
事業承継支援(本社・東京)も会員サービスに事業後継者のための婚活あっせんを行う「家督承継支援」があります。「眼鏡にかなう最適な後継者候補を探し出し、娘婿、次期社長候補者として引き合わせる」とありますが、ここは家柄重視で敷居が高そうです。
その他、全国各地の商工会議所、JA(農協)でも事業承継がらみの婚活をあっせんしています。仏教界でも高野山真言宗が寺院を対象に事業承継婚活あっせんを始めています。

サラリーマンが経営者になれるチャンス?

かつてアメリカには、カネはないが人一倍野心の強い男が事業家の一人娘に取り入って結婚し、資産を相続して自分の才覚で事業を大きくし実業界の大物になる「アメリカンドリーム」の話が多くあり、映画にもなりました。日本の戦国時代にも、無一文の僧侶から油商人の娘婿におさまって築いたカネと才覚を使い、最後は美濃一
国を乗っ取って大名にまで出世した武将、斎藤道三がいました。
そんな話には「人生、一発大逆転」の匂いが漂いますが、そこまでギラギラしていなくても、一介の独身サラリーマンが経営者、一国一城の主になれる方法として「事業承継婚活」は、検討の余地があるかもしれません。
“義父”のもとで「帝王学」を修めて本業にいそしむだけで終わりではありません。たとえばネットビジネスを始めたい人が米穀卸の会社の社長の娘婿になったとします。全くの異業種ですが、米穀卸なら地元の外食企業や米菓など食品企業とのコネクションがあるはずです。義父の会社の看板、人脈、資金、経営ノウハウなどを活用して「外食・食品×ネット」の新規事業を企画し、戦略子会社を立ち上げる。それは自分一人で資金を集めて起業するよりもハードルは低くなるでしょう。

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。

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