2019年8月23日 更新

日EUのEPAで“高級天然塩”の輸出入が活発化?食文化の交流に期待

今年2月、日本とEUの間のEPA協定が発効しました。ワインが安くなりましたが「天然塩」の関税も撤廃されました。岩塩、海水塩など欧州産高級天然塩の輸入が増えそうですが、海外で日本食が定着しているので、日本産の天然塩にも輸出拡大のチャンスです。

2019.8.23

日本とEUの間で「天然塩」の関税が撤廃

昨年7月、日本と欧州連合(EU)はEPA(経済連携協定)の締結で合意し、今年2月1日に発効しました。その時、大きく報じられたのは「欧州産ワインが安くなる」でした。相互のワインの関税を即時撤廃し、実際に店頭では欧州産ワインの値段が下がりました。

しかし、日本とEUの間で関税が即時撤廃されたのはワインだけではありませんでした。「塩」もそうです。正確にはEUへの輸出は全て関税即時撤廃。EUから日本への輸入は「精製塩」は11年目に関税撤廃、「天然塩」などそれ以外は即時撤廃となっていました。
「精製塩」とは、原塩を溶解して塩化ナトリウムの含有量を99.5%以上に精製したものや、海水からイオン交換膜透析法で塩化ナトリウムの含有量を99%以上に濃縮したものです。「食卓塩」や「食塩」と名付けられ、主に日本たばこ産業(JT)が取り扱ってスーパーや食料品店で安く売られているのが「精製塩」で、製塩工場でつくられる高純度で価格の安い塩です。
一方の「天然塩」は一般に地名などをつけた独自のブランドなどがつき、精製塩より価格が高い塩です。日本では海岸の塩田で海水を乾燥させるなど古くからの製法でつくられます。豆腐の製造や雪道のすべり止めに使われる塩化ナトリウムの「にがり(苦汁)」や、カリウム、カルシウムなどのミネラル分が含まれ、塩化ナトリウムの含有量は80%程度と低くなっています。
日本では2008年施行の「食用塩の表示に関する公正競争規約」で、商品名や商品の説明文で「天然塩」「自然塩」と表示してはいけないことになりました。その代わり、「伯方」(愛媛県)、「酒田」(山形県)、「赤穂」(兵庫県)など産地ブランドがよくつきます。「粗塩」「荒塩」「自然海塩」のような表示になっていることもあります。

日本は実は塩の輸入国で、World Mineral Productionの統計や財務省の貿易統計によると2017年、国内生産量92.6万トン、国内消費量847.4万トンで、約755万トンを輸入しました。輸入先の第1位はメキシコの318万トン、第2位はオーストラリアの304万トンで、その2ヵ国で輸入量の82.4%を占めます。しかし、塩の輸入量のほとんどは化学工業(ソーダ工業)用で、食用の塩は国内生産だけでほぼ自給できると言われています。それでも、グルメな人は世界の「おいしい塩」を求めています。

欧州各地に岩塩、海水塩の名産地がある

EUからの輸入関税が即時撤廃された天然塩は、欧州各地に古代、中世以来の岩塩、海水塩の名産地があります。
地中から掘り出す岩塩の生産が多い国は、EU加盟国ではドイツ、ポーランド、オーストリア、スペインなどで、それぞれに「ブランド岩塩」があります。ドイツ南部産の「アルペンザルツ」、オーストリア産の「ザルツソルト」は日本にも輸入されています。ポーランドの「ヴェエリチカ」は中世以来の産地で、「王立ヴィエリチカ岩塩坑」は世界遺産ですが、1996年に生産を終了したためブランドに希少価値がついています。
海水を濃縮・乾燥させてつくる海水塩のほうはフランスが本場で、特に「カマルグ」「ゲランド」「イル・ド・レ(レ島)」が世界的に有名です。温泉に湯の花ができるように、塩分が濃くなった海水には「フルール・ド・セル(塩の花)」という白い塩の塊ができますが、それをていねいにすくい取ったものは潮の香りが残りミネラルが豊富な最高品質の自然海塩として、世界中のシェフやグルメの間でひろく知られています。

それ以外も北イタリア・チェルビア産の「サルフィオーレ」や英国王室御用達の「マルドンシーソルト」など、EU諸国でさまざまなブランド天然塩がつくられています。それらは関税0%で日本市場に入り始めました。

宮古島「雪塩」が日本の天然塩輸出の先駆者

国内のフランス料理店やイタリア料理店は、高級になるほど欧州高級ブランド塩を取り寄せて使っています。欧州で修業した日本人シェフは、食材は日本産でもオリーブ油や塩など調味料は輸入品を使う傾向があります。
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