ソニーが成功した「リカーリング・ビジネス」が注目されている理由

キャリア

「リカーリング・ビジネス」は、モノの利用の際に必要になるモノやサービスで収益をあげたり、モノを繰り返し利用させて収益をあげるビジネスモデルで、話題の「サブスクリプション」もそれに含まれます。ソニーはこのリカーリングで大きな復活を遂げました。

 (47700)

2019.9.24

リカーリングとサブスクリプションの違い

いま、よく聞かれる経済用語に「サブスクリプション」略して「サブスク」があります。日本語では「定額制サービス」で、毎月一定の料金を払えば「利用権」が得られるサービスです(支払いが毎日、3カ月ごと、半年ごと、1年ごとの場合もあります)。別に新しいビジネスではなく、電車の定期券も新聞の購読料も月極駐車場の利用料もプロバイダー料金もみな「サブスクリプション」ですが、それが自動車、洋服、外食など意外なものにも拡大してニュースになっています。
それとは別の概念に「リカーリング」というものがあります。語源は英語の「Recurring」で「繰り返し」「循環」といった意味があります。ビジネス用語では、モノを売ったらそれ1回きりでなく、そのモノを利用する際に必要になるモノやサービスで収益をあげたり、販売しなくてもモノを繰り返し利用させて収益をあげるビジネスモデルのことです。
たとえばコピー機やプリンターを売ったら、後で紙やインクのような消耗品の販売でも継続的に収益をあげられます。それを「ジレットモデル」と呼ぶことがあります。ジレットはアメリカの安全カミソリのメーカーで、替え刃の取り替え需要で継続的に収益をあげられるように、ジレットは街頭でカミソリ本体をタダで配りました。100年以上前の話ですが、それは「リカーリング・ビジネス」の先駆けだったと言えます。
その他、家庭用ゲーム機のゲームソフト、使い捨てのコンタクトレンズもリカーリングです。購入のたびに収益が得られます。モノの販売を伴っていなくても、電話代も電気代もガス代も水道代もリカーリングです。それらは原則「従量課金制」で使用量に応じて料金が変動するので定額制ではありませんが、定額制の音楽配信や動画配信、プロバイダー料金や新聞の購読料、家賃や駐車場代などもリカーリングの中に含まれます。
つまり、サブスクリプションはリカーリングの一部をなしている概念なのです。
鉄道は乗客に電車を利用させて運賃収入を得るリカーリング・サービスですが、定期券の販売という定額制のサブスクリプション・モデルが含まれます。月極駐車場はサブスクリプションのリカーリングで、時間制駐車場はただのリカーリングです。スマホの分割払いの端末代はリカーリングではありませんが、通話料はリカーリングで、毎月定額の情報料はサブスクリプションのリカーリングです。

ソニーはリカーリングの収益でよみがえった

 (47704)

リカーリング・サービスで復活した日本を代表する企業があります。それはソニーです。
ソニーの2019年3月期決算は、営業利益21.7%増、最終利益86.7%増と利益額を大きく伸ばす好決算でした。売上高営業利益率は10.3%で、日立の7.9%、三菱電機の6.4%、パナソニックの5.1%を大きく引き離し、つい数年前は最終赤字に苦しんだソニーは、業界でも群を抜く高収益企業に一変しました。
とは言っても昔の「ウォークマン」のような大ヒット商品や大ヒット映画は現れませんでした。ソニー復活の原動力は、スマホ用部品の「イメージセンサー」と、「リカーリング」による収益が伸びたことでした。
リカーリングは具体的には「プレイステーションネットワーク」や、「プレイステーション4」ユーザー用有料会員サービス「PSプラス」の会費収入やソフト販売収入、犬型ロボット「aibo」の本体価格以外の利用料金(月額2,980円)、デジタルカメラ「αシリーズ」のEマウントレンズ(交換レンズ)、ソニー生命の生命保険料などです。それに加え、「スポティファイ」のような音楽配信サービスでソニーの音楽コンテンツが配信された際た、「ネットフリックス」のような動画配信サービスでソニーの映画ソフトが配信された際の著作権収益が、海外で大きく伸びました。
リカーリングビジネスは成長して、2019年3月期のソニーの売上高8兆6,656億円のおよそ半分を占めるまでになっています。

「所有から利用へ」のトレンドが後押しする

ソニーの成功を見て、経営不振に陥って資産売却を繰り返した東芝は5カ年の中期経営計画「東芝Nextプラン」で「リカーリング型事業への構造転換」を強調しています。2019年4月にはグローバル市場でリカーリングビジネスを推進する目的でKDDIと提携を結びました。具体的にはエレベーターの事業で遠隔監視のようなリカーリング・モデルを確立します。新築ビルではなく既設のエレベーターで、メンテナンスなどで新たな収益源をどん欲に取っていこう、というわけです。 いま消費者の嗜好は「所有から利用へ」変化しています。モノを持たなくても、借りて、使って楽しみ、その分だけ料金を払います。たとえば「aibo」を買わずに借りて遊んで、あきたら返せばいいわけです。2019年7月、ソニーマーケティングはレンティオと連携してaiboのレンタルサービス(期間は7泊8日または3カ月)を始めました。これもまたソニーのリカーリング・ビジネスです。 そんな「所有から利用へ」というトレンドは、サブスクリプションにも、リカーリングにも、大きな追い風になっていくことでしょう。
寺尾淳(Jun Terao)

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。
]]>