(1)リーダーであるには「人たらし」であれ
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“善く戦う者は、人を致して人に致されず。”(虚実篇)
(意味) 善く戦う者は、人を思うがまま操り自分は要らぬ労力をかけない。
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良い指揮官は、相手のペースに乗らず、常に敵を自分のペースに巻き込むものです。
例えば、職場の上司で、この人の言うことなら信頼できる、ついていきたいと思える人はいないでしょうか。人を巻き込む力、つまりいい意味での「人たらし」であり、リーダーの素質があると言えます。
しかし、人を意のままに動かすのは大変です。過去、多くの成功者たちが「他人を意のままに操ることはできない。動かすことができるのは自分だけ」だと述べています。
孫子の兵法では、自らのペースに相手を巻き込むためには、情報収集が大切だと言われています。情報がないと受け身にならざるを得ず、自分が相手のペースに乗せられてしまうからです。
ビジネスにおいても同じで、人をうまく使う人ほど、人の心情や機微、人間関係、あるいは利害関係といった詳細な情報を入手し、根回しを行っているものなのです。
(2)リーダーにふさわしくない5つの資質
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“故に将に五危あり。必死は殺す可(べ)く、必生は虜(とりこ)とす可く、忿速(ふんそく)は侮る可く、廉潔は辱む可く、愛民は煩わす可し。凡そ、此の五者は将の過ちなり、用兵の災いなり。軍を覆し将を殺すは、必ず五危を以ってす。”(九変篇)
(意味)
将軍には五つの危険がある。
死を覚悟して勇敢に戦うと敗死する。慎重すぎると捕まって捕虜となる。短気で血が上りやすいと策に嵌る。清廉潔白だと名誉にこだわり侮られる。部下に情をかければ大を活かすことができない。
これら五つの資質は将が犯す間違いであり、軍の規律を乱して将を死に追いやるものである。
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これを組織に置き換えてみると、リーダーには、チームの規律を乱すふさわしくない行為があると読めるでしょう。
必死とは勇敢さを意味しますが、勇敢であることはときに無謀にもなりえます。勇敢なリーダーは、チームを危機的な状況に追いやる恐れがあります。
必生とは、リスク回避を意味します。安全を優先することは、慎重で粘り強いという長所を持ちますが、ここ一番のときに実力を発揮できないかもしれません。勇敢であることと慎重であることは、どちらに偏りすぎてもいけないのです。
また、忿速は即断即決ができる強みがありますが、情報戦となると相手の策に乗りやすいという欠点があります。
清廉潔白であることは高潔だと言えますが、名誉を重んじ利益を嫌うあまり、勝機を見逃してしまう恐れがあります。
いずれにせよ、リーダーには、状況を俯瞰し多面的に判断できるバランスのよさが求められます。
(3)リーダーは部下が活躍できる環境づくりに注力せよ
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“軍に輜重(しちょう)無ければ則ち亡(ほろ)ぶ。糧食無ければ則ち亡(ほろ)ぶ。委積(いし)無ければ則ち亡ぶ。(軍争篇)”
(意味)軍に兵站が無ければ負ける。食糧が無ければ負ける。財貨が無ければ負ける。
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孫子の兵法第七編である軍争篇は、開戦に至るまでの駆け引きについての戦略が書かれています。
ここでは、開戦までにできるだけ速やかに戦場に到着し、兵士に休息を十分に取らせ、実力が十分に発揮できる状態で戦に臨むことを説いています。
戦は、兵を戦地に派遣することに加え、必要な軍需品、食糧、財貨を後方から輸送する必要があります。必要な装備、食糧、資金という後方支援により環境を整えることが重要だということです。
ビジネスでいえば、「戦」は商談や企画を通すためのプレゼンテーションと読めます。いずれも下準備が大切ですし、部下には十分な休息や必要な支援・フォローを行い、十分なコンディションで臨ませることが重要です。
もちろん、現実においては、万事において準備万端の状態で物事に臨めることのほうが少ないでしょう。だからこそ、リーダーは、重要な局面に至るまでの状況を把握し、できることなら自軍に有利なように動かすことが求められます。
リーダーには、単に人間的な魅力だけではなく、状況を冷静に判断し、勝機のある方向へとチームを動かしてゆく「戦術家」としての役割も求められるのです。
参考文献
・龍介橘『世界一わかりやすい孫子の兵法』インプレス、2015年8月
・知的発見!探検隊監修『あらすじとイラストでわかる孫子の兵法』イーストプレス、2011年1月