日本起業家1位は「宇宙の掃除屋」アストロスケールCEO岡田氏

経済誌Forbes JAPAN2019年の日本起業家ランキング1位のAstroscale(アストロスケール)創業者の岡田光信氏は、宇宙ゴミを除去する宇宙の掃除屋ビジネスを立ち上げました。エリート官僚出身ですが、ものづくり企業を結集する過程は人情溢れる物語でした。

2019.1.1

高校生の頃からの夢だった宇宙ビジネスへ

「Astroscale」(本社:シンガポール)を創業した岡田光信氏は兵庫県出身で、1973年生まれの45歳。東京大学農学部を卒業後大蔵省(現:財務省)に入省。主計局勤務を経てマッキンゼー・アンド・カンパニーに移り、アメリカのパデュー大学でMBA(経営学修士号)を取得しています。
経営コンサルタントではなく自ら経営を手がけたいと、日本、中国、インド、シンガポールなどを拠点に約10年にわたりIT業界のグローバル経営者として活躍。「ターボリナックス」「Sugao Pte. Ltd.」などの企業を立ち上げました。2013年、シンガポールに「Astroscale(アストロスケール)」を創業してCEOに就任、2015年に日本法人を設立しました。
Astroscaleは宇宙ビジネスを手がけるスタートアップ企業です。ロケットや人工衛星が衝突したら壊れてしまう「宇宙ゴミ(スペース・デブリ)」を宇宙空間から除去して宇宙を安全にすることが、事業目的です。
宇宙は、岡田氏にとって少年の頃からの夢でした。兵庫県西宮市の甲陽学園高校1年在学中、科学雑誌「Newton」の募集に応募してアメリカを訪れ、アラバマ州のNASAの「スペースキャンプ」で宇宙飛行士や管制官の疑似体験を2週間、経験しています。
この時に岡田少年は訓練中の日本人宇宙飛行士、毛利衛氏と面会しています。毛利氏は質問に気さくに答えた後、「岡田光信君、宇宙は君達の活躍するところ」という手書きのメッセージをプレゼントしてくれました。

日本製衛星をロシアで打ち上げ英国で管制

「スペース・スウィーパーズ(宇宙の掃除屋)」を名乗る岡田氏はシンガポール在住ですが、アメリカ、EU、ロシア、日本など世界で宇宙開発が行われている場所を飛び回っています。宇宙ゴミは1センチ以上のものが75万個以上あり、銃弾の約20倍の速度で地球を周回。人工衛星を破壊するとそれも宇宙ゴミにしてしまうので、どこでも共通の悩みです。
2017年、Astroscaleは初の自前の人工衛星「スペースデブリ観測衛星IDEA OSG1」を東京の自社工場で製作し、ロシアのロケットで打ち上げ、英国政府から150万ポンドの資金を得て開設したオックスフォード郊外の管制センターで追跡し、データを収集しています。観測衛星の役割は宇宙ゴミを計測してその「地図(分布データ)」を作ることですが、将来は宇宙ゴミの除去を行う「掃除屋衛星」を打ち上げて、宇宙ゴミの問題の解決を目指しています。
岡田氏のビジネスは国連も注目し、2016年3月にはハーバード・ビジネス・スクールに招かれて講演を行っています。宇宙ビジネスではAmazon.comのCEOで「Blue Origin」を創業したJeff Bezos氏に次ぐ2人目でした。

Astroscale版「下町ロケット」物語

Astroscaleの社内で宇宙ゴミを除去する方法、打ち上げる衛星、必要な設備、資金、組織などのプランが固まったのは2014年でした。考案した除去方法は、特殊粘着剤がついた「とりもち」で衝撃を和らげながら宇宙ゴミを捕獲し、それを大気圏に再突入させて「焼いて消す」というユニークなものです。
そんなアイデアを実現させるために、岡田氏はものづくり技術を持つ中小企業を探して日本の隅々まで訪ね歩きました。「宇宙ゴミの問題は宇宙開発の障害です」「宇宙に巨大な『とりもち』を打ち上げゴミを捕獲します」と構想を説明すると変人扱いされたこともありましたが、それでも話を聞いて理解し協力を約束してくれる経営者もいて、ある頑固そうな職人気質の初老経営者は岡田氏の熱心な説明を聞いた後、「あんたに惚れた」と言って力を貸してくれたそうです。
愛知県の切削工具メーカーから「朝10時から会える」と前日夕方に連絡が入り、シンガポールから国際線の深夜便の旅客機と新幹線を乗り継いで間に合い、「本当に来たんですね」と驚かれたこともあったといいます。
まるでドラマの「下町ロケット」のようなエピソードですが、こうして日本のものづくり企業の技術が結集し、海外企業の協力も得てチーム「スペース・スウィーパーズ(宇宙の掃除屋)」が生まれました。2015年、Astroscaleは最初の資金調達に成功し、東京の下町、錦糸町に工場を建てています。
クールなイメージの宇宙ビジネスで、情熱で口説き落とすような人情に溢れる物語がありました。それを「正気と狂気の狭間」と表現する岡田氏は「Forbes JAPAN」の日本の起業家ランキング2019で第1位に輝いています。
寺尾淳(Jun Terao)

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。
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