富裕層に選ばれる最高級品の証、世界の王室御用達の「王室ブランド」

日本の「宮内庁御用達」は公の制度ではありませんが、世界の多くの王室は御用達の「王室ブランド」を公認しています。それを産業振興、輸出拡大、観光客誘致のために戦略的に活用している国もあります。歴史の中に消えた王朝の「旧王室ブランド」も健在です。

2019.12.

「宮内庁御用達」と「王室ブランド」の違い

2019年10月22日に行われた天皇陛下の「即位の礼」では、全世界からの賓客の方々が列席されました。スーツ姿の大統領や首相、大使に交じり、その華やかさが目を引いたのは「王室」の方々でした。世界には日本やバチカンも含めて現在29の「君主国」があり、「王国」は英国やスウェーデンやスペインやタイなど17で、「公国」が3、「大公国」が1となっています。ほとんどの王室は日本の皇室と親しくお付き合いしています。
その日本の皇室に関して「宮内庁御用達(くないちょうごようたし)」という言葉を聞いたことがある方は、少なくないでしょう。宮内庁を通じて日本の皇室に納めている商品という意味ですが、実は1891年に始まった許可制度「宮内省御用達」は1954年に廃止され、現在、「宮内庁御用達」は公の制度としては存在していません。廃止前に納めていた商品、皇室への納入や献上の実績がある商品がそれを名乗っていますが、宮内庁は納入リストを公表しておらず、そのお墨付きもありません。とはいえ名乗っても違法ではなく、事実上、黙認されています。
一方、世界の王室には、英国のように伝統の「王室御用達」制度を存続させている国もあれば、王室が使っていると王室や政府が公認し、業者が「王室ブランド」を名乗るのを許可している国もあります。中には、産業振興、輸出拡大、観光客誘致のために、政府が戦略的に王室のステータスを活用して「御用達」商品をPRしている国もあります。

ベルギー王室御用達チョコレートは8種類

「英国王室御用達(ロイヤルワラント)」は王室が厳しく審査し、合格すればエリザベス2世、夫のエディンバラ公、息子のチャールズ皇太子(ウエールズ公)がそれぞれ「令状」を発行して、王室への納入と紋章の使用を許可しています。
ファッションの「バーバリー」や「ダックス」は王室御用達のおかげで最高級ブランドとみなされ、日本のデパートでは高い値段で売られていますが、実はケロッグのコーンフレークも王室御用達で、令状を発行した女王陛下は毎朝、食べておられます。
2015年には英国史上最長在位を記念した特別仕様「ケロッグ・クイーン・フレークス」が発売されました。他にはハインツのケチャップやタバスコも英国王室御用達です。
王室ブランドを大いに活用している国がベルギーです。オランダから独立したのは約170年前の1830年で、中世以来の伝統がある英国やスペインなどと比べると新しく、それだけに王室は「国民のために貢献したい」という意識が強く、王室の方々は頻繁に外国を訪問しては文化や観光や自国製品をPRし、ベルギーのイメージアップに努めています。
「ベルギー王室御用達」も、自国製品の品質やブランド力を高めるためにフル活用。この国の特産品と言えば「チョコレート」が有名ですが、その王室御用達は日本でもおなじみの「ゴディバ」をはじめ8種類もあります。非常に厳しい審査をパスしたものだけが国王名の「王室御用達証」を授けられ、パッケージや宣伝で王家の紋章の使用を許され、5年ごとの再審査を義務づけられています。王室御用達の名誉を受けようとメーカーは開発競争にしのぎを削り、ベルギーのチョコレートの品質は向上し重要な輸出品になりました。
タイの王室は御用達の認定にとどまらず、自ら王室ブランドをつくりました。ロイヤルプロジェクト(王様のプロジェクト)を始めたのはプミポン前国王で、「ドイ・カム」などのブランド名がついています。麻薬栽培に依存していた貧しい農村部の生活を向上させようと王室自ら新しい商品作物、工芸品、シルク衣料の導入、生産拡大、品質向上を推進し、王室のブランド力を活用して都市部の市民や観光客に売っています。そのショップの企画・運営には王室の女性も関わっています。

歴史上の旧王室も、そのブランド力は健在

王室ブランドには、過去の革命や政変で消えた「旧王室」のものもあります。たとえば日本でも販売されているフランスの「マルセイユ石鹸」は、ルイ14世が製造法の勅令を出して王室御用達に選んだ歴史がありますが、「マリウス・ファーブル」はその勅令通りに作ることで「王家の石鹸」マルセイユ石鹸の最高級ブランドのステータスを得ています。
革命で王位を追われたブルボン家の御用達だけでなく、ヨーロッパにはボナパルト家(ナポレオン)御用達のジュエリー「ショーメ」、ハプスブルク家御用達の磁器「アウガルテン」、ホーエンツォレルン家(ドイツ皇帝)御用達のコーヒー「ダルマイヤー」、ロマノフ家(ロシア皇帝)御用達のウォッカ「スミルノフ」などさまざまな「旧王室御用達ブランド」商品があり、現存する王室のブランドと同様に、「間違いない品質の最高級品」の証しとして世界の富裕層などアッパークラスに愛好されています。
寺尾淳(Jun Terao)

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。
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