ユニクロ型でもアマゾン型でもない小売新業態「D2C」とは?

ユニクロ型でもアマゾン型でもない小売新業態「D2C」は、自社で企画・生産した商品を自社サイトで販売します。アメリカの成功事例を見ると、商品の特徴、サービス、ビジョン、思想、ユニークさなどで思い切ったことをして消費者のハートをつかみました。

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2020.1.23

自ら製造して消費者に直接販売する「D2C」

「ユニクロ(UNIQLO)」(ファーストリテイリング)は、ファッション商品を企画してその生産を外部に委託し、自前の小売店舗(リアル店舗)で販売する「製造小売(SPA)」の業態です。「アマゾン(AMAZON.COM)」は、「マーケットプレイス」で外部からさまざまな商品を受け入れ、店舗は持たず、自らの販売サイト(バーチャル店舗)で販売する「ネット販売」の業態です。どちらも小売業で成功をおさめたビジネスモデルとして世界的に知られています。
しかし今、ユニクロ型でもアマゾン型でもない新しい小売業のビジネスモデル「D2C」が注目されています。B2B(対企業)でもB2C(対個人)でもC2C(オークションなど個人間売買)でもないD2Cとは「Direct to Consumer(消費者に直接)」の略です。企業が商品を企画して、それを自ら生産するか、あるいは委託先に生産させ、販売については流通業者など他社を一切介さず、全品を自社サイトで消費者に直接販売したら、それはD2Cの業態になります。
D2Cは、商品を自社で企画・生産しようとリアル店舗を出店していない点でユニクロ型と異なります。自社サイトで消費者に直接販売しようと、売る商品は全て自社で企画・生産している点でアマゾン型とも異なります。
とはいえ、D2Cは製造小売(SPA)がベースです。まずありえないことですが、もしユニクロが自前の店舗を全部手放してネット販売に専念したら、それはD2Cに変わります。農家や造り酒屋やワイナリーや陶磁器の窯元で、商品を問屋に一切卸さず自社サイトだけで産直販売していたら、それもD2Cと呼ぶことができます。

アメリカではファッション系に成功例が多い

2010年以降、アメリカでは数多くのD2Cベンチャーが旗揚げしました。競争に敗れて消え去ったものも少なくありませんが、メガネの「Warby Parker」(ニューヨーク)、アパレルの「Everlane」(サンフランシスコ)、コスメの「Glossier」(ニューヨーク)などファッション系やビューティー系に成功例が多いのが特徴です。ふつうの工業製品と違って趣味性があるので、一定数の消費者が「これ好き!」とファンになってくれればビジネスが成り立ちやすい面はあるようです。
その中でやや異色なのが、ニューヨークに本社がある電動歯ブラシメーカーの「Quip」です。歯ブラシに趣味性はありませんが、自社で企画・生産した商品をネットでダイレクト販売するとともに、月額25ドルの定額制(サブスクリプション・モデル)サービスでブラシ部分の定期取り替えと、提携した歯科医による歯の検診、クリーニングまで無料で受けられるビジネスモデルによって、強固な顧客基盤を築くのに成功しました。それは消費者とダイレクトコンタクトができる強みを持つD2Cだからこそのサービスと言えます。

こだわった商品、こだわったビジネスに向く

アメリカでの成功事例を見ると、D2Cは個性的な「こだわった商品」や「こだわったビジネス」を展開するのに向いているようです。自由度が高くて思い切ったことをやりやすいと言えます。
流通業者を通しませんから、その方面から苦情めいたお小言や、お節介気味のアドバイスを受けることがありません。自社サイトのみで販売するとは、販売のリスクを全て自社が負うことを意味するからです。
電動歯ブラシの「Quip」は歯科医と提携した定額制モデルで「歯医者の検診を受けるといくらお金がかかるかわからない」と思っている消費者に“安心感”を提供しました。コスメの「Glossier」は、商品よりも先に創業者によるファッションブログを立ち上げて月間ページビュー140万を達成。そこに集まった創業者のファンのコミュニティに向けて自社商品を直接アピールして販売するというユニークな方法をとっています。
メガネの「Warby Parker」、アパレルの「Everlane」は中間流通を省いた分、「Tシャツ15ドル」など思い切った低価格路線を打ち出しています。「Everlane」は「製造原価完全公開」という、従来のアパレル企業なら怖くてできなかったこともやってのけました。約2週間単位の「少量・期間限定販売」で「今でないと買えないプレミアム感」も演出しています。これらは話題を呼び、宣伝費をかけていなくてもいい宣伝になりました。
このように、成功したD2C企業は「ビジョン」さらには「思想」まではっきり打ち出し、ダイレクト販売の利点を活かして消費者との間で密接な関係を築いています。
D2Cは、店舗網を一から構築しなくても、アマゾンなど既存の販売チャネルと提携しなくても、自社の商品やサービスに自信があればスピーディーに起業を果たし、チャレンジすることができます。起業のハードルは低くなりますが、その先の成功をおさめられるかどうかは、商品の特徴やサービス、ビジョン、思想、ユニークさなどで消費者のハートをつかめるかどうかにかかっています。
寺尾淳(Jun Terao)

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。
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