【特別企画】野口悠紀雄講演:ブロックチェーンが、なぜ「革命」といわれるか

野口悠紀雄ブロックチェーン基調講演
ブロックチェーンについて、どのくらいあなたは知っていますか? これからの人生、いや人間のあり方を変えてしまうかもしれないといわれる技術、ブロックチェーン。
著書「ブロックチェーン革命」にて、ブロックチェーンによって変わる世界を先駆けて示唆した野口悠紀雄氏の基調講演をお届けします。(FLOCブロックチェーン大学校イベント基調講演より)
2018.11.7

皆さんこんばんは。野口悠紀雄です。本日、ブロックチェーン革命についてお話しできる機会をいただきましたことを大変うれしく思っております。主催をしてくださいました 株式会社FLOCブロックチェーン大学校の皆様方に御礼申し上げたいと思います。

「書き換えることができない電子的な記録を残すための技術」とは

一番最初に、ブロックチェーンというのは何かということなんですが、これは一言で言えば「書き換えることができない電子的な記録を残すための技術」なんです。

ブロックチェーンに書いてある情報というのは書き換えられていない、ですから正しい情報だということがわかるわけです。これがどうしてそんなに重要な事なのかすぐにはおわかりにくいと思いますが、これからお話ししますように書き換えられない情報っていうのはインターネットの世界、あるいは電子的な情報の世界では大変重要なんです。

情報が「正しい情報である」ということがわかることによってこれまでできなかったいろいろなことができるようになる。それが今日お話ししたいことの中心的なテーマです。

実は書き換えられないようにするための仕組み、これが大変やっかいなのでその話は、後に回し、もし書き換えられない情報ができたとしたらどういうことになるか、それからお話を始めたいと思います。

そのためには、比喩を使ってお話しする方がわかりやすいと思うんです。

仮に石にその情報を書き込む、石に書いた情報は書き換えられないですよね。そういう技術が開発されたと、そういう風に思ってください。もちろん石に書くということは大変なことです。だけどそれが、ある方法によって簡単に書くことができるようになった、そういう風にお考えになってください。いいですか。書いてあるのは書き換えられないです。ですからそれは正しい情報です。そういうことが可能になったときに一体何が起こるかということです。

それを通貨、マネーについてご説明しているのがこの図です。

ここに2つの丸が書いてありますが、この左側が従来の仕組みです。右側がブロックチェーンの世界なんです。

左側の世界、ここでは「集中管理」っていう風に書いてありますが、ある島だと思ってください。島で集中管理型の、つまりこれまでの情報管理が行われている。そこで電子マネーを使う、どういうことになるか。

ここに国民が3人描いてあります。この人達の間で電子マネーを送るという風に考えます。それをどういう風に処理するかというと、たとえばAさんがBさんに電子マネーを送る。送ったっていうことを集中的な情報の管理をしている人、真ん中に王冠が描いてあります、王様なんですが、この王様に通知をするんです。インターネットで通知をするんです。そうすると王様は自分の手元に台帳を持っています。その台帳に全ての取引が書いてあるんです。AさんからBさんに送ったっていう情報が来ますと、その取引が正しいかどうかという事をチェックします。過去のデータを見て、台帳を見てチェックするんです。本当にAさんは電子マネーを持っているかとか、Bさんに送ったっていうんだけどCさんにも同じものを送っていないかどうか、そのたぐいのチェックをします。

正しいっていうことになれば、そのことを王様が台帳に記録するんです。

記録されたらその電子マネーの取引が成立したということになります。つまりBさんが正当な電子マネーの保有者になるということです。これが電子マネーの仕組みです。

ところが、右に書いてある国。
これはブロックチェーンの国なんですが、ここでは違う方法によって今の取引が処理されています。それはどういうことかというと、この国にはいくつかの町がある、町の中央に広場があると思ってください。広場に大きな石がある、ここに情報を記録するんです。

その情報を記録する担当の人はボランティアです。

町に広場があって、石の板があって、ボランティアが情報を記録するんです。この町でこの国民のAさんがBさんに仮想通貨、ビットコインを送ったとします。そうするとそれをこのボランティア達に連絡するんです。

すると集中管理型の島の王様と同じようにこのボランティアはその取引が正しいかどうかをチェックします。チェックできて正しいということになったらそれを石の板に書き込むんです。いろんな町に石の板がありますが、みんな同じ情報を書き込みます。書き込まれたらその取引が成立したということになります。石の板で広場に立っているわけですからこれは誰でも見ることができ、公開されています。そういう意味で「公開台帳」と言います。そして、いろんな町に沢山あるので、分散されている。

「公開分散台帳」といいます。これがブロックチェーンのことです。

分散された公開の台帳に取引を記録するんです。これがビットコイン、仮想通貨の取引の仕組みなんです。

それではこの左側の仕組みと右側の仕組みどこが違うかということを考えていきます。

従来の集中型の仕組みと、ブロックチェーンの違い3つ

もう一度、図を見てみましょう。

違い1:コスト

次の3つの点で違います。第1番目はコストが違うんです。

左側の仕組みっていうのは王様が管理している。王様は偉い人ですから、この管理をするために手数料が必要なん
です、かなり高い手数料が。つまり集中型の仕組みはコストが高いんです。

それに対して右側の仕組みは先ほどボランティアがやっています。
だからコストは全部ではないんですが、そんなに高くはない。ブロックチェーンはコストが安い、それが第1番目の違いです。

違い2:安全度

2番目の違いは、攻撃や事故に対する安全度の違いなんです。
左側は王様が一人で1つしか無い台帳を管理していますから、何か事故があったら記録は全部無くなってしまう。全体のシステムがダウンします。

たとえば嵐が来て王様が住んでる宮殿が潰れちゃったとか、あるいは誰か悪い人が来て王様を殺しちゃったとか。そういうことになると全体が駄目になっちゃうんです。

つまり集中型の仕組みは事故や攻撃に弱いということです。

それに対して右側の仕組みは、沢山の情報があって、みんな同じ情報ですから、そのうち1つが駄目になっても全体はダウンしないんです。たとえば嵐が来て1つの石が倒れちゃったと。でも他の町に同じ情報がある。だから全体の仕組みは、全体のシステムはダウンしません。分散型の仕組みは攻撃とか事故に対して強いんです。これが第2番目です。

違い3:信用しているもの

第3番目の違い、これが一番重要なことなんですが、何を信用しているかということなんです。

左側の仕組みを司っているのが王様と言いましたが、なぜ王様と言っているかというと、王様は偉い人だから、多分悪いことはしないんです。でも、もしかしたら悪いことをしちゃうかもしれない。AさんからBさんに送ったっていうのをAさんから私に送ったっていう記録に変えちゃうかもしれない。でもそれは悪いことだから王様はしないという信頼があるんです。それによってこのシステムが成り立っているんです。

つまり集中型の仕組みは、集中型の情報管理をやっている人が悪い人でないという仮定に基づいています。難しい言葉を使って言えば、これは性善説に基づいた仕組みです。事業を行っている人が悪人ではないという事を仮定しているんです。だから王様でないと駄目なんです。どこかその辺の人を連れてきて集中管理をやらせようとしても人々は信用しません。だから仕組みは成立しません。王様が必要なんです。

右側の仕組みは、記録をしているのはボランティアです。ボランティアはどこの誰か素性がわからない人です。でもこの仕組は、彼らを信用しているんじゃないんです。この仕組みが運用できるのは石の板に書いてあるからです。石の板に書いたら書き換えられない、だから正しいということなんです。

つまり右のシステム、ブロックチェーンの仕組みは、仕組みそのものを信用しているんです。やっている人を信用しているんじゃないです。

やってる人は悪い人がいるかもしれないけれども、その石に書いているから大丈夫だ、仕組みを信用しているわけです。やってる人は悪い人でも、それでも成り立つんです。つまり右側の仕組みは、性悪説にいたってもなおかつ成り立つ仕組みです。

コストが違う、攻撃や事故の安全性が違う、3番目に何を信用しているかが違う、こういう点が違います。この3つの点が違うんです。