サブスクリプションサービスの成功・失敗事例 成否を分けるのは?

トヨタが「KINTO」を発表し、いま注目度が高まるサブスクリプション(定額制)サービス。通信サービスや音楽・動画配信から、高級バッグ、化粧品、コンタクトレンズ、紳士服などさまざまな方面に拡大していますが、失敗例もあります。成否を左右するのは何なのでしょうか?

2019.2.27

さまざまな業種に拡大する「定額サービス」

2月5日、トヨタ自動車は新サービス「KINTO(キント)」を発表しました。毎月一定額の料金を支払えばトヨタの乗用車を借りられます。料金には税金や保険やメンテナンス費用も含まれ、たとえば「プリウス」は3年間、月4万6,100円で乗れます。
そんな毎月決まった金額を支払えばモノやサービスが「使い放題」になるのを「サブスクリプション(定額制)サービス」と言い、さまざまな分野でどんどん拡大しています。昔から毎月定額で何度も利用できるスポーツクラブはあり、携帯キャリアは電話かけ放題、データ使い放題の定額サービスを行っていました。「スポティファイ」のような音楽配信、「ネットフリックス」のような動画配信も、基本は定額制で視聴し放題です。
自動車では日産が、「マーチ」が月額2万3,868円で乗れる「クリックモビ」を東海地方で試行中です。ガリバーが運営するIDOMの「NOREL(ノレル)」はBMWなど輸入車もラインナップに加えました。
メニコングループはコンタクトレンズで「エースコンタクト」、アイスタイルは化粧品で「BLOOM BOX」という定額制サービスを行っています。ファッション関連ではラクサス・テクノロジーズの月6,800円で高級バッグ借り放題の「ラクサス」や、月々定額でスタイリストが選んだ3着の婦人服が届き、自由に取り替えて借り放題になる「エアークローゼット」があります。

大事な収益源を損なったAOKIの失敗例

消費者ニーズの「所有から利用へ」の変化に合わせて盛り上がるサブスクリプションサービスですが、すでに撤退例が出ています。
紳士服のAOKIは2018年4月、定額制で紳士服をレンタルする「スーツボックス」を始めましたが、わずか7カ月後の11月に終了、撤退しました。明らかな失敗です。
スーツはサラリーマンのユニフォームですが、購入金額が最も多い年代は40代です。それに比べて30代は育児や教育にお金がかかり家計に余裕がないこともあって購入頻度が落ちており、AOKIはこの年代の購入を取り戻そうと定額制を導入しました。ところが実際に定額制に飛びついたのは40代でした。40代も家計に余裕がない事情に変わりはなく、スーツの購入を定額制レンタルに切り替え、少しでも節約しようとしたのです。
「定額制で30代のスーツ離れを食い止め将来の40代の需要につなげる」という企画の目論見は見事に外れ、大事な収益源である40代のスーツ販売市場を侵食してしまうという皮肉な結果に終わりました。
AOKIの失敗例は、使い方を誤ればサブスクリプションサービスは薬ではなく毒にもなりかねないことを示しています。では失敗しないためにはどうすればいいのでしょうか?

「体験価値」「つながり」「密着度」の三要素

最初に考えるのは「定額制でどんな体験、価値をお客さんに提供できるか」です。もしそれが「安さ」だけなら、赤字を出して挫折します。安さ以外の体験や価値を提供し「ファン」を拡大しなければ意味がありません。
たとえば婦人服はTPOに合わせて「この日はこれを着たい」というニーズがあり、定額制のレンタルでその価値を提供できますが、日常づかいの紳士服にはイベント性は希薄で、ほとんど経済合理性で選ばれる傾向があります。そのため定額制を導入しても「安さ」以外の価値を提供するのが難しいのです。
次に考えるのが顧客との「つながり」です。月ぎめの料金を徴収すると毎月、顧客との接点を持ち価値提案ができるチャンスがあります。しかし料金回収を業者に丸投げして接触をおろそかにすると借りっぱなしの「冷めた関係」になり、チャンスは逃げていきます。バッグの「ラクサス」はスマホの位置情報から顧客が好むブランド店舗を突き止め、そのブランドを提案することまでやっています。
そして最後に物を言うのは顧客との「密着度」です。定額制が目指すゴールは「購入」ですが、顧客が「気に入ったので自分のものにしたい」と所有欲を持てるかどうかは、顧客へのフォローの出来、不出来にかかっています。大変ですが、成功すれば店頭の「一期一会」の接客で販売するのとは違って密着度が高い分、顧客が「ファン」になる可能性が高まります。それは良い口コミが広まり、顧客が新しい顧客を連れてきて売上の拡大に直結するような、うれしい結果にもつながります。
サブスクリプションサービスで結果を残すには、少なくとも目的を明確にし、システムやコールセンターなどバックアップ体制を整えなければなりません。「はやっているから」「競合他社もやっている」と安易に付け焼き刃で導入しても、無残な敗北を喫するでしょう。
寺尾淳(Jun Terao)

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。
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