あれから約8年。最近では「お金の教養」という言葉は、すっかり違和感なく世の中に溶けこむようになった。連動するかのように、ファイナンシャルアカデミーの講座に通う 受講生の数も大きく伸びている。当時、月間100人ほどであった入門講座「お金の教養講座」の受講生数は直近では月間3,000人を超えるまでになった。それだけ「お金の教養」を学ぶことの必要性が浸透してきている証といえるだろう。
「お金の教養」は、お金を増やすための知識やノウハウではない。私はそれを “Finance as Liberal Arts” と定義づけている。
リベラルアーツ(Liberal Arts)とは、自分の人生を自由に謳歌するために不可欠な「基 礎学問」だ。欧米では、幼い時期からアート(art)とサイエンス(science)を軸にリベラルアーツを幅広く学ぶことで、自分の生き方やアイデンティティについて自由かつ主体的に考えられるような教育が行われている。
翻って日本はどうであろうか。本書でも再三にわたって警鐘を鳴らしてきたが、学問教 育・職業教育偏重の日本では、生きることの本質を問うような基礎学問には、ほとんど時間が割かれてこなかった。こうした幼い頃からの教育の蓄積の結果が、今の欧米人と日本人とのライフスタイルや人生観、そしてそこから来る幸福感の決定的な差となって表れて いるのである。本書の命題は「お金とは何か」ということだが、そこに「正解」は存在しない。百人百様、世界に70億人がいれば、70億通りの答えが存在するであろう。しかし、だからといっ てこの命題を追求することに意味がないわけではない。なぜならば、この命題についての 議論が活発に行われることこそが、多くの人が「お金」という軸を通じて社会を捉えることにつながり、その軸の歪みによって起こっていた社会問題を解決することにつながっていくからだ。
正直に申し上げて、本書で書いたことのすべてが賛同を得られるものであるという確信はない。しかし、生活や人生と切っても切り離せない「お金」というものについて、原論不在のまま時代が進んでいくことに大きな危機感を覚えている。ぜひ、1人でも多くの人にこの議論に加わっていただきたい。「お金とは何か」という議論が活発になることこそが、「お金原論」確立への唯一の道であり、私の喜びであるからだ。
Think Money. Think Life.
今こそ、原論不在のお金の200年の歴史に風穴を空けようではないか。「お金」という一見無機質な側面を持つものだからこそ、その本質はいったい何なのかという「原論」をリベラルアーツと一緒に考える意義は大きい。その有機的な結合こそが、現代における 最適解を導き出すものだと信じてやまない。
お金とは、信用を見える化したもの。(泉 正人)
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