2019.10.4
強さを取り戻したわけではない
9月27日、トランプ政権が米国から中国への証券投資の制限を検討しているとの報道がなされ米国株式市場は前日比70ドル安の2万6,820ドルで終えました。一時、米中の閣僚級協議が10月10~11日に開かれる見通しと伝わったことで摩擦の緩和期待感から米ダウは上昇する場面もありましたが、この制限報道により米中の悪化懸念が再び意識され下落となりました。
実は、この制限報道をきっかけに株価が下落したと報じられる一方で、このところは世界の株式市場の上値の重さが目立っていたのも事実です。この週に発表されたいくつかの米指標はかなりネガティブな内容があり投資家は景気の強さに確認が持てなくなっていました。
そのタイミングに制限検討が報道されただけではなくトランプ大統領自身の弾劾調査開始というインパクトの大きなニュースが加わり、政治的な色合いで株価が下がったといったメインストーリーになっていますが、本質的には何を原因として株価は下げているのかを判断する必要がありそうです。
実際に、いくつもの米国経済指標では景気減速の可能性が示唆されており、株価は夏場の下落局面から底入れだけは確認できたものの、決して「強さを取り戻した」ものではなく安値から高値までの「定位置に戻した」といえます。ここかの一段上昇には、景気の強さと企業業績の明るい見通が不可欠です。
しかし、24日に米国カンファレンスボードが発表した9月の米国消費者信頼感指数は、125.1と前の月から大幅に低下。しかも、問題なのはロイターがまとめたエコノミスト49人の予想値であった133.5に対しての乖離が大きく2010年以来最大の乖離となりました。
それだけではなく、将来への期待値も低下しています。ここから数カ月間は、貿易摩擦の不確実がある限り悪化傾向が継続する可能性が高く、ここに大きな問題が潜んでいます。
エコノミストの予想と実情が乖離しているということは、エコノミストの景気が強いというレポートを前提に投資判断が進んでいるわけですが、消費者は景気減速を肌で感じ始めており、そのためどこかの時点では消費者の景気拡大に対する信頼を損なう可能性を示唆しています。
弱気材料に目を向けよう
現在の株高は世界的な量的緩和が支えです。しかし、世界的な量的緩和の最中にノルウェー中銀が逆行し利上げを行いました。また、日銀、スイス中央銀行は政策金利の据え置きを発表しています。通常、米欧中銀が緩和政策を行うと日銀やスイス中央銀行は自国通貨高を阻止すべく政策を追随するのが常套手段です。
しかし、今回の据え置きの背景には、「非常時へのカード温存」が目的ではないかと考えられます。政策金利での「手」が限られている日銀とスイス中銀は、何かしらの予兆を感じ取って不透明な経済見通しに備えカードを温存しているのではないかと見ています。
また、ここ2年間継続的な懸念材料であった英国のブレグジット。無秩序なEU離脱について長らく注目されてきましたが、最近では相場に影響が少ないとする向きが多く、安心してロングポジションを構築している投資家が多いと聞こえています。もし、このメインシナリと逆のイベントが発生すると投資資金の巻き戻しが大量に起こり大幅な調整になることに注意が必要です。
さらに、いつも話題になる中国。現在、中国のCDSスプレッドが上昇しています。2015年にチャイナショックで大幅に上昇したことでCDSスプレッドは有名になりましたが、日米のCDSスプレッドが現在安定している中、中国の独歩上昇が気になるところです。
このネガティブ材料を取り払うには、10月からスタートする企業業績発表でポジティブな内容が必要です。今回は、個別企業の株価だけではなく全体相場への影響を与えかねないのでまずは10月中旬の米国企業の企業業績に注目しましょう。