言葉を武器に発信力を高める!「明日のライターゼミ」西島知宏氏インタビュー

インタビュー

「言葉」をうまく使えたらビジネスでの発信力も上げられる―。今最も活躍するウェブライターやコピーライターが講師を務めるオンラインサロン「明日のライターゼミ」は、現役ライターやその卵だけでなく、企業のPR担当者や一般の会社員など、幅広い層から注目を集めています。自身も輝かしいクリエイティブの実績を持つゼミ主催者 西島知宏氏がオンラインサロンを開いたのはなぜか。ビジネスとクリエイティブの境界が重なりつつある今、ビジネスパーソンにも注目のライター論をお届けします。

――明日のライターゼミはライター向けの講座ですが、「言葉」は万人のもの。それを武器にする方法を実践的に教えてくれる場ということで、一般の会社員にも学びのあるゼミと聞いています。

はい。受講生からはマーケティングやブランティングに役に立ったと言われたりします。ただ結果としてそうなっているというだけで、教える側としては、「自信をもって教えられるライターとしての方法論を、ライターと名乗る人に届ける」ということをやっているにすぎません。

――結果、会社員にも役に立ったと。

はい。ライターの世界は、ただ書ければいいというだけではなく、より上流のところの課題設定ができないと価値が上がらない時代になってきました。

クリエイティブとビジネスの境界が交わってきた

――課題設定とはどういうことでしょうか。

何事もうのみにせず、普通のことにも疑問を持ち、おかしいと思ったことを議論できる力です。

クライアントから「この商品は〇〇の理由で売れていない」と言われたときに、「本当にそうなのか?」と問いなおせるかどうかということです。

それができないと、往々にしてアウトプットがおかしなことになってしまいます。設定された課題をうのみにせずに、消費者の目線で、「それって何か違うんじゃないか?」という疑問を持てるかということがライターにも求められているのです。

――「課題設定力」は、ビジネスパーソン共通の大事なスキルかもしれませんね。

最近のビジネスの流れとして、コンサルティング会社がクリエイティブエージェンシーを買収したり、広告代理店がビジネス戦略寄りの提案をするといった流れが出てきています。それが実際できているかはさておき、今まで別々のプレーヤーがやっていた領域が重なってきています。個人としても、企業としてもこのクロス領域での仕事ができないと、やっていけなくなる気がしています。

海外のトップスポーツブランドと仕事をしているクリエイティブエージェンシーは、発注された仕事をこなすのではなく、クライアントと一緒にブランドを育てていく「パートナー」として仕事ができています。「パートナー」の立ち位置に立てると、やらされ仕事ではない「いい仕事」がはじめてできます。本来仕事はそうあるべきです。しかし、現状は、そうなっていない仕事の方が多いのかなと思います。

――それは一般的な日本の「発注主とベンダーの関係」の特徴かもしれないです。

はい。ですがこれからは、そうでなくなるはずです。結果の出ないところに予算はつけられないからです。結果を残すために、淘汰が進むか、仕事の進め方が変わっていくはずです。

広告代理店におけるライターの立ち位置は変わった

――広告代理店にも変化の兆しはあるのでしょうか。

既に、アウトプットを作るだけのコピーライターは、広告代理店の中でも肩身が狭くなっていると聞きます。

そして、デジタル施策がわかる人やクリエイティブもストラテジーもできるというような戦略プランナーに仕事が集まってきています。ライターを含むクリエイターに求められるスキルは10年前と確実に変わってきているのです。

――その波はもっと来るのですか。

はい。世の中のムーブメントを作ることを意識的にできる人でないと、生き残っていけない時代になるはずです。そこに手を打つために、僕はオンラインサロンを始めました。

オフラインでのつながりがオンラインを強くする

――「明日のライターゼミ」とはどんな講座なのですか。

今ウェブを中心に活躍しているコピーライターやウェブライターが講師を務め、コピーライティングから長い文章の書き方、企画の立て方、SNSで届ける方法などの実践的なテクニックやマインドを教えています。

――オフラインでの講義が中心のプログラムだそうですね。

はい。「オンラインサロン」といえど、結局オフラインが大事だと思っています。

オフラインで何かできると、オンラインでも一歩抜け出せる気がしています。オフラインでつながると、オンラインでつながる意味も出てくるからです。

それに、オンライン講座だけだと飽きてしまうかもしれないですよね。オンラインのメルマガや優良記事を登録していても、しばらくすると読まなくなってしまったりします。それよりも、映画館のように2時間拘束されて、そこで話を聞き、そのあと飲みに行くといった交流がある方が、意味があるし、続けやすい気がしています。

クリエイティブのトレーニング方法

――クリエイティブのスキルはトレーニングしたら身に付くものでしょうか。

はい。身に着けられると思っています。

もちろん中には天才的な人もいます。野球でいうと、普通の人がどれだけ頑張ってもイチロークラスにはなれないかもしれません。でもプロ野球選手として、そこそこの実績を残すところまでは、トレーニング次第でいけるはずです。

――どんな訓練方法があるのですか。

やり方は様々ですが、僕は好きな文章を集めて、その文章の「公式」を導きだすことをしています。例えば、「ヤンキー」と「親切」という出会ったことがない二つの言葉を組み合わせると「意外性」が演出できたりします。この場合、「出会ったことがないものを出合わせる“意外性”」が公式です。そういった公式をあぶりだす作業をひたすらやっています。

具体的には、好きな文章やビデオのリンクを、カテゴリーに分けてブックマークに保存するということをしています。

そして次に課題が来た時に、抽出した公式を使って実際に文章を作ってみます。それは他の人の作品をコピーするということではなく、あくまで「公式」を使うということです。

――ただ、公式がわかっていることと、使いこなすことは別の話かなとも思います。

確かに使いこなすのは難しいです。ですがこれは、慣れでしかないと思います。プロ野球選手も、何度も反復練習をして、「何か違う」と感じるところの修正を繰り返すことで、精度を上げています。それは誰でもできることだったりしますが、やらない人が多いことでもあります。

実は僕も、電通の社会人一年目の時の文章はかなり稚拙でした。「今日は部長に魚定食をおごってもらいました。とってもおいしかったです」というような文章を書いていました。

でもずっと「公式」を抽出して試すことをしてきたら、賞もとれましたし、自分が得意なジャンルがわかってきました。

文章を「書かされる」感覚にたどりつく

――何年ぐらいでライターはものになるのでしょうか?

毎日やったとして2~3年はかかると思います。

僕が書く文章はバカバカしいものですが、「この文章の次はこれしかありえない」という確信をもって書いています。そこまでいくには更に数年かかるかもしれません。

例えば、僕は文章には「笑い」と「納得」を入れたいと思っています。少し笑える話から入った方がおもしろいと思っているし、「あの記事は普通の記事と違う」という印象が残せるからです。その感覚は、何年も書いているうちに自分で発見したもので、人から教えられてすぐできたものではありません。

――書く前に、内容を整理して、これを書こうと決めてから書き始めるのですか。

はい。ただ「書く」には二段階あって、企画としてこれを書こうと決める段階と、書き始めてからディテールを詰めるクラフトワークの段階があります。

企画を終えていざ書き始めると、「これだ!」と一本道が通る瞬間が見えることがあります。それは、企画段階から見えているわけでもない部分だったりします。

2度読みたくなる文章を一生で何本かけるか

――中には毎日のように大量のアウトプットができるライターもいます。

それはタイプに分かれます。4,000文字を何分で書けるかを正確に把握していているライターさんもいます。でも僕はどちらかというと筆が遅いタイプで、書き始めるまでに動画サイトを見続けたりして、時間がかかってしまいます。でもそれはタイプの違いで、どちらがいいということではありません。

ただ僕の知っている優秀な書き手は、筆が遅いタイプが多いかもしれません。頭の中でいろいろなことを想定してしまい、なかなか書き始められないのです。

早く深い文章を書けるにこしたことはありません。ですが、僕は結局のところ「2回読みたいと思える文章を何本かけるか」を大事にしたいと思っています。

ウェブでいい文章だと思うものはあるけど、2回読みたくなるものはほとんどないですよね。

人は代表作で評価されるものです。僕はそういった文章を書いていきたいのです。

山口晶子

米国公認会計士。コンサルティング会社勤務。

西島知宏氏

クリエイティブディレクター。ウェブサイト『街角のクリエイティブ』編集長。奈良新聞社取締役。電通を経てBASEを創業。著書『思考のスイッチ』は日韓で発売。オンラインサロン『明日のライターゼミ 主催』。

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