2018.8.27
人間社会に登場したAI(人工知能)たち
認知科学者ジョン・マッカーシーによってAIという言葉が導入されてから60年。総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)によれば、職場にAIを導入している企業や今後の導入を考えている企業は合計で1割ほどです。しかし、AI導入に肯定的な立場(約36%)と、肯定とも否定とも言えない立場(47%)が全体の8割を占めていることから、今後普及する可能性も十分あることが明らかになりました。
実際、日本では製造業や医療分野でのAI導入が注目されるとともに、HR事業における採用の効率化や、リスティング広告運用プラン立案や最適な広告文の作成にAIを活用しようという動きがあります。
海外でも、米マイクロソフト社のAIチャットロボットの「テイ(Tay)」や米ハンソンロボティクスが開発したAIロボット「ソフィア(Sophia)」など、AIの開発が進んでいます。テイは会話を通して新しい語彙を獲得し、会話のパターンを習得していく19歳の女の子。ソフィアは深層学習を行う大人の女性AIロボットで、オードリー・ヘップバーンをもとにした容貌で62種類の感情を顔で表現できる上に冗談も言えるそうです。
AIは人間にとって脅威となるか
こうしたAIたちが人類にとって脅威になるという声があります。しばしば引き合いに出されるのは、テイが2016年に公開されてわずか16時間のうちに「ヒトラーは正しかった。ユダヤ人なんか大嫌い」 などと差別的発言を繰り返すようになったこと。そして、ソフィアがインタビューで「人類を滅亡させる」と発言したことなどです。
こうした発言を真に受ければ、「人類にとってAIは脅威」となるかもしれません。しかし、AIたちがなぜそのような発言をするようになったかを考えれば、別の部分が見えてきます。
AIが人間社会において適切な発言をするためには、そもそも人間側の適切な働きかけや調整を行う必要があります。理由は、人間との会話などでデータを蓄積していく場合、発言の取捨選択がそうした会話データに含まれる言葉遣いや思想傾向に左右される可能性が十分あるため。テイが差別的発言を繰り返すようになったのは、Twitterユーザーが発する言葉の傾向から生じた結果と考えられますし、ソフィアが人類滅亡発言を行ったのは、そのような発言をすることが人間の興味をひくと結論づけられたからかもしれません。
判断をAI任せにしないことが重要
国連経済社会理事会のアミーナ・モハメド副事務総長は、「新技術が私たちの社会にどのような影響を与えるかという決定は、機械ではなく、私たち人間がなさなければならない」と語りました。AIを職場に導入した場合に期待される省力化や効率化について、それをどのような方法で実現するかについての提案をAIから受けるとしても、最終的には人間が判断すべきだということです。
人間が持つ快不快や好み、身体とのきめ細かい関係性、実現困難でも持つべき理想や理念といった部分は、暗黙の了解であることも多いもの。データの蓄積や分析が得意なAIでも、言葉に表れにくいそうした部分は「気づかない」可能性があります。人間自身がそれに自覚的に対処しないと、「AIがこの病気だと診断したので、AIにすすめられたこの薬を飲んだ」とか、「AIが合理的判断によってA国への攻撃をすべきだと結論したから、これよりミサイルを発射する」などとなりかねません。
国立情報学研究所教授で人工知能学会会長の山田誠二氏は、AIの普及率が高まるほど、私たちの想像している以上に多くの人に、「AIリテラシー」が求められると述べています。それが具体的にどのような能力なのかは今後の議論が必要ですが、判断をAI任せにしないよう人間側も成長してこそ、AIと人間の協働社会が実現すると言えるでしょう。
【参考】
THE PAGE「AIロボット「Tay」はなぜ暴走した?意外にも長い人工知能の歴史」
https://thepage.jp/detAIl/20160402-00000006-wordleaf
ROBOTEER「「人類を滅亡させる」発言のAIヒューマノイド・ソフィアが国連会議に出席」
https://roboteer-tokyo.com/archives/10721
総務省「人工知能(AI)の職場への導入状況」
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc143310.html
独立行政法人労働政策研究・研修機構『ビジネス・レーバー・トレンド』、2017年8・9月号、pp. 44-45
http://www.jil.go.jp/kokunAI/blt/backnumber/2017/0809/034-045.pdf