2017.11.10
大谷は、その後、料理人の葉山という男を連れてきました。
ある飲食チェーンで料理人をしている男が、僕らの計画に乗りたいと言ってきたのです。年齢は二八歳で、僕らのふたつ年下ですが、精惇なルックスと鋭い目が印象的で一目見ただけで、独立心が強いのはすぐわかりました。
葉山は大谷が仕事を通じて知り合った人物で、彼の腕を見込んで早くから目をつけていたそうです。大谷が言っていた最高の人材とは彼のことだったようです。
大谷の粘り強い説得で、連れてこられた格好でしたが、彼は彼なりに自分のキャリアを考えた結果だと言っていました。
大谷の粘り強い説得で、連れてこられた格好でしたが、彼は彼なりに自分のキャリアを考えた結果だと言っていました。
「はじめまして。葉山健太です。大谷さんから最初に話を聞かされたときは、正直、迷いもあったのですが……。
今、私は、料理人歴十年です。前の店では、マネージャーも兼務していました。今の飲食チェーンでもそれなりの待遇を受けているのですが、このまま続けたとしても、せいぜい地域マネージャー止まりなのは目に見えています。
その時に大谷さんからこの話を聞かされたので、よそで自分の力を試してみるのも悪くないと思ったんです。一から飲食ブランドを起ち上げるなんて夢のある話、僕も乗らせてください!」
正直、僕らにとっては、葉山は心強い味方だった。たしかに味については、誰か専門職の料理人を雇うことを考えていたが、若くて野心のある男ならば、ゼロから一緒にやっていく気概も十分だろう。何もないところから飲食のブランドチェーンを起ち上げるには最適な選択だったと思います。
だから、彼をこの時点で雇うことには躊躇はしませんでした 。
予定していた開業まであと六カ月あったから、葉山には事情を話して、基本給は安く設定して、売り上げに応じた歩合をつけることを提案しました。
彼はそれでもいい、と、この条件を飲んでくれました。開業六カ月前からランニングコストが発生するのは痛かったですが、必要経費だと思いました。
そこからメニュー作りが本格化しました。僕らの夢が一気に現実味を帯びた瞬間です。本当に毎晩、葉山の家の厨房に集まって、この味はイケるんじゃないか、いや、この具は味のインパクトが薄すぎるだろう、と意見を交わす味見会と同時並行でコンセプト作りの打ち合わせも三人で顔を付き合わせながら、侃々諤々行いました。
「……だから、高級路線なら、パックにもこだわらなきゃダメだろう」
「いや、逆にテイクアウトがメインなら、すぐその場でも食べられるような簡易的な包装と、お店独自のこだわりの包装を選べるようにした方がいいんじゃないか?」
「そんなのいちいち面倒くさくないか? 買うたびに選ぶくらいなら、どれかひとつに統一した方が絶対いいと思う!」
(毎週金曜、7時更新)
via amzn.asia