2018.7.6
学歴もない、経験もない。そして、お金も地位もない。
そんな僕が、ひとつだけもっているものがありました。
それは「我」です。
「我」を捨てたほうが早く成長できる
「我が強い」などの表現でよく使われる「我」。
「我」とは、『広辞苑』によると「思うところに凝り固まって、人の言葉にしたがわないこと。ひとりよがり」という意味をさしますが、まさに20年前の僕はそんな人間でした。
僕が初めて就いた定職は、美容師でした。
美容師などの専門職は、見習いというかたちで、先輩の技術やノウハウを学び一人前になっていくのが当たり前とされていましたが、僕はほんの少しのアルバイト経験が邪魔をして、そのアルバイトで身につけた少しの知識をもとに、自分なりの考えで美容師としてがんばっていこうと、前向きに意気込んでいました。
勤務先のオーナー経営者は、とても面倒見の良い方で、社会経験のほとんどない僕に対して、さまざまな角度からアドバイスをしてくれていました。
しかし、当時の僕は「我」が邪魔をして聞く耳をもたず、「自分で判断し、自分で成長できる」と勝手に思っていたのです。
ところが、すぐに壁にぶつかりました。
オーナーや先輩の話を素直に聞いている同僚は、すぐに成長して多くの仕事を任せてもらっているのに、僕はなかなか成長できずにどんどん彼らとの差が広がってしまったのです。
その事実に気づいた僕は、オーナーの話を素直に聞き入れ、仕事をすることを決意
しました。つまり、
「我」を捨てることにした
のです。
オーナーに教えてもらったのは美容師としてのカット技術だけではありません。れこそ、「人間的基礎」といった部分からアドバイスをしてくれました。
・あいさつのしかた
・お辞儀のしかた
・仕事中の姿勢など立ち居振る舞い
・お客さまが来たら笑顔を見せること……など
そのころの僕は、茶髪でチャラチャラとした外見で、まともな敬語も使えないばかりか、あいさつもろくにできない未熟な若造でした。
そんな僕に対して、オーナーはまるで親がしつけるように社会人としての基本をいちから根気強く教えてくれたのです。
正直にいうと、最初は「うるさいなぁ」と思っていたのですが、オーナーの言葉を受け入れ、基本的なことから変えていくと、徐々に前向きに思考が変わり、成長していく姿を自分自身で感じとれるようになっていきました。
すると、素直にオーナーの助言を聞き入れられるようになり、それに応えるようにオーナーもさらにたくさんのことを教えてくれるようになりました。
オーナーは、新間を読むことの大切さも諭してくれました。
勤めていた美容院は、オフィス街と飲み屋街が混在するような立地だったので、経営者やビジネスパーソン、飲食業の方など、いろいろなタイプのお客さまが来店していました。
そのようなお客さまと会話を弾ませるためにも、新間を読んで社会情勢や経済の知識、時事ネタなどを仕入れておく必要があるとアドバイスしてくれたのです。
当時は、月15万円ほどの収入だったので、4,000円程度の新聞代の出費さえも惜しかったのですが、食べたいものやほしいものを我慢してでも新聞代を捻出し、毎日読み続けました。
さらには、ファッション誌や週刊誌などにも目を通し、どんな話題でも話ができる
よう貪欲に情報収集に励みました。
その成果もあって、少しずつお客さまとのコミュニケーションも成立するようになっていきました。
このようにオーナーの言うことを素直に聞き入れることで、僕はカット技術だけではなく、それ以外の社会人としての基本やコミュニケーション能力などを磨くことができました。当時の僕にとっては、4,000円という金額は大きな投資でしたが、結果的に大きなリターンとして返ってきたのです。
そのおかげで、仕事の成果も上がるようになり、美容師をはじめて4年ほどたったころには、オーナーが経営していた美容院を任されるほどに成長できたのです。
当時、オーナーも同じ新聞を読んでいたので、その新間を僕に毎曰くれることもできたはずです。あとから知ったのですが、タダで新聞を読むよりも、自分で毎月4,000円の投資を行うほうが、より大きなリターンが返ってくると考えたうえで、あえて自分で買うようにアドバイスをしてくださったのです。
その後、自分の美容師としての能力に限界を感じ、美容師の道はあきらめてしまうことになりますが、もしもオーナーの助言を素直に聞き入れていなければ、僕は当然、店を任せてもらうことはなかったでしょうし、社会常識もないままにほかの仕事に就いても、うまくいかなかったと思います。
もっといえば、自分の「我」を捨てずに我が道を進んでいたならば、オーナーからアドバイスを続けてもらうことができず、そこからの成長もなかったと思っています。
若いころは、だれもがアドバイスなどに対して反発したくなる時期があると思います。実際に僕もそうでした。
しかし、この美容院での経験をきっかけに、その後はさまざまな人のアドバイスを聞き入れるようになりました。そして、
自分のやり方を貫き通すよりも、「我」を捨てて身を委ねたほうが楽に、早く成長できる
ことに気づいていったのです。
成長するためにまずは流されてみよう
本書でお伝えしたいことは、たったひとつです。
「あなたが信頼できる人に、流されてみましょう」
ということです。
本書は、僕の経験をもとに執筆したものです。美容院のオーナーをはじめ、何人かの信頼できる人に「流される」ことによって、能力のなかった僕でも、想定していたよりも速いスピードで成長し、当時の目標を達成することができました。
また、多くの魅力的な方々とお会いするチャンスに恵まれたことで、さらに成長し、自分の知らなかった新しい世界をたくさん知ることもできました。
いまもなお流される力の威力を身をもって実感している最中ですが、もちろん、これからも数多くの信頼し合える方々に流され、自分を成長させたいと願っています。
個性はとても重要だと思いますが、最初から個性や「我」にしがみついていると、成長が遅くなってしまいます。
信頼できる他人に流されて、その人の思考や行動のとおりにすることによって、結果が大きく変わることを僕は経験しました。
僕も最初は、流されるのは遠まわりだと思いましたが、いまでは
「成果を出してから自分の個性を主張しても遅くない」
と考えるようになったのです。
・がんばっているのに結果が出ない
・なんとなく伸び悩みや閉塞感を感じている
・なにから手をつけてよいかわからず、悶々とした日々を過ごしている
・自分の成長はマイペースでよいと思っている
このように感じているのであれば、ぜひ一度、僕が経験した「流される力」がどのようなものであるかを知っていただきたいと思います。
美容師を辞めたあと、IT、不動産、経済金融教育の学校設立など、まったく未知の分野にチャレンジしてきましたが、この「流される力」を身につけることによって、移り変わりの激しい時代であっても柔軟な対応ができる基盤をつくれたと思っています。
「いまは信頼できる人がいない」「だれもアドバイスしてくれる人がいない」という人でも、信頼できる人の見つけ方から、人から信頼される思考・行動まで、僕の経験をもとに一つひとつ丁寧にお伝えしていきます。
本書が、あなたが新たな道を発見するきっかけになれば、著者としてこれほどうれしいことはありません。