イギリス王室のキャサリン妃は、庶民的な価格でありながらもハイセンスな服を身にまとっていることで知られる。その彼女が、娘のシャーロット王女の写真を公開したときに着せていたのは、生後半年、1年ともにスペインの小さなファッションブランド「M&H」だ。すべての製品がハンドメイドであるにもかかわらず、王女が着ていたワンピースは29・95ユーロ(当時約4,000円)だという。価格に対する価値が限りなく高い例といえるだろう。
私自身も、美味しいものを食べることがかけがえのない趣味の1つなのだが、店を選ぶときには、価値の中身を非常に重視している。リーズナブルで美味しくても、工業製品として作られたメニューが並ぶ店は避け、料理人自らが「美味しいものを食べてほしい」という想いを込めて料理を作ってくれる店に繰り返し通う。そして、お酒や料理はもちろん、水もあえて有料のものを注文するなど、ささやかではあるが、少しでも多くの売上げが立つような応援をしている。
ファミリーレストランにも工場にも、そこで働く「人」がいるではないか、という反論もあるだろう。もちろんそうだ。工場で働く人やその経営者にも「1 人でも多くの人に届けて喜んでもらいたい」という想いがあるかもしれない。しかし、それがパッケージングされ、配送業者によって店舗に運ばれ、店舗で働く人の手によって販売されるという過程を経ることで、提供する側の「温もり」は必然的に薄まってしまう。
何も、工業製品だから悪いと言っているのではない。重要なのは、お金を支払うときに、その価値の中身は何なのかを意識する、ということだ。「寿司が◯◯円」「煮魚定食が◯◯円」「椅子が◯◯円」という支払う対象のモノやサービスと価格とを比較するだけでなく、それがどういった過程を経てここに存在しているのかを考える習慣をつける、ということだ。そうすることで、さらに複眼的に価値を見極めることができるようになる。
(『お金原論』132〜135ページより転載)
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泉 正人
ファイナンシャルアカデミーグループ代表一般社団法人金融学習協会理事長
日本初の商標登録サイトを立ち上げた後、自らの経験から金融経済教育の必要性を感じ、2002年にファイナンシャルアカデミーを創立、代表に就任。身近な生活のお金から、会計、経済、資産運用に至るまで、独自の体系的なカリキュラムを構築。東京・大阪・ニューヨークの3つの学校運営を行い、「お金の教養」を伝えることを通じ、より多くの人に真に豊かでゆとりのある人生を送ってもらうための金融経済教育の定着をめざしている。『お金の教養』(大和書房)、『仕組み仕事術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など、著書は30冊累計130万部を超え、韓国、台湾、中国で翻訳版も発売されている。一般社団法人金融学習協会理事長。