2018年1月5日 更新

「自己資金を元に一店舗一店舗着実に増やしていくか、それとも銀行から借り入れをして一気に大きくするか」第13章[第25話]

元銀行員の男が起業をして、一時は成功の夢をつかみかけたが失敗する。男はなぜ自分が失敗したのか、その理由を、ジョーカーと名乗る怪しげな老人から教わっていく。"ファイナンシャルアカデミー代表"泉正人が贈る、お金と人間の再生の物語。

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2017.12.22
 この街では、お店は早く閉まる。
 僕らがもしどこかのカフェに入っていたら、「閉店のお時間です」と告げるウェイトレスに店を追い出されている頃だろう。そして、次のお店を探そうにも、他で深夜営業をしているカフェもないので、すごすごと家に帰ることになっていただろうか。
 しかし、僕らは出会ってからずっと広場のそばのベンチに腰をかけていた。
 デザインのいい椅子と思っていた椅子は機能性にも優れていたようで、座り続けても、疲れはそれほど感じなかった。
 電飾の明かりも徐々に落とされていく。この時間になっても慢燈とした明かりで街を照らしていたのは、コンビニエンスストアだけだった。今や街中にいったい何軒あるんだろう? 僕は遠くを見つめながら、そんなことを考えていた。
「いつも思うんだ。後悔は先に立たず、転ばぬ先の杖ということわざは、私たちに慎重さを求めてくるが、実際にこのことわざの本意を身にしみて理解するのは、だいたいの物事が終わった後だ。後悔しているときだったり、転んでしまった後だったり……」
 老人のユーモアのある話しぶりに、いくらか心が和らいだ。
 僕は、ゆっくりと話の続きをし始めた。
 その頃の僕は、思い返せば浮き足立っていたように思います。成功を確信して、言うことも、やることも大胆になってきました。
 この時の感覚は今でもよく覚えているのですが、せっかく大きな成功を目の前にしているのだから、やらなかったら損だ、そんな感覚です。何もしていないことだけで損しているような感覚というか……。
 今度の勝負は起業したときと同じ勇気は必要ない。黙って、チェスの駒をスッと前に進めるだけでいい。
 しかし、それを押し止めているものがありました。自己資金の縛りです。自己資金を元に一店舗一店舗着実に増やしていくか、それとも銀行から借り入れをして一気に大きくするか。僕はまた選択に迫られました。
 クリームおにぎりの人気は、一時のピークは越えましたが、安定的に売り上げに貢献してくれていました。もし、ここで最良の一手を打てれば、米角の経営そのものが一段階ステップアップすると確信していました。
 この時の決断は、僕ひとりでしました。僕の計画は、三号店四号店の同時開業です。
 銀行から二〇〇〇万円の借り入れも決めました。
 後から話したら、ふたりとも驚いていました。あんなに自己資金にこだわっていたのに、という驚きだったと思います。しかし、扱う金額も大きくなり、自分ならできる!という気持ちでした。それに二〇〇〇万円くらいの借り入れだったら、今の利益から考えて一年半で返せるはずでした。
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 三号店は、この街の一番大きなS駅のコンコース内で、その駅は新幹線も停まる駅です。そこは最初に僕らが出店することを夢見ていた場所でした。
 四号店は、この街、最大の繁華街であるT町に出店することにしました。T町は映画館もあれば、おしゃれなカフェもあり、デートスポットになるような繁華街です。
 このふたつの店は同じ中心部にあるので近距離にあります。M駅前店とK駅構内店でうまくいったやり方を真似ることにしました。
 ふたつの店から等間隔にある場所に厨房を借りて、そこでおにぎりを作り、両方のお店に出荷するスタイルを取ったのです。むしろ、初めからこのスタイルを取りたかったから、二店舗同時開業を決めたところもありました。コストが同じで利益が倍になる感覚に味をしめていました。
 S駅内のコンコースの家賃は月に五〇万円。契約金やお店の設置にかかる費用の見積もりが二〇〇〇万円近くで、この金額が初期費用として必要となりました。T町の家賃は月に四五万円。さらにお店の外観を含めた改装費も必要となったので、ここでの初期費用はおよそ一二〇〇万円です。それから厨房のための場所はなかなかいい場所が見つからず焦りましたが、ちょうどいい場所に居抜きで使える店舗用物件あったのでこれを借りました。家賃は二五万円です。借り入れた二〇〇〇万円と自己資金一五〇〇万円を合わせた三五〇〇万円でこれらの費用をまかないました。
 新たにスタッフを雇い入れ、お店の改装なども設計士にお願いして、希望通りのものを作ろうとしました。
 出て行くお金が飛躍的に大きくなり、僕もだんだん不安を覚えましたが、“今が勝負どきなんだ”と自分に言い聞かせました。
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泉 正人 泉 正人
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