2019.1.17
厚生労働省のガイドラインとモデル就業規則
日本企業ではおおむね、副業は禁止されていましたが、政府の「働き方改革」に沿っていま、就業規則を改正して「副業(複業・兼業)」を認める会社が増えています。当初は本業に支障が出ると否定的だった経団連も容認の方向に転換。2017年3月の働き方改革実現会議「働き方改革実行計画」の5-(3)に「副業・兼業の推進に向けたガイドラインや改定版モデル就業規則の策定」と盛り込まれたのをふまえ、厚生労働省は2018年1月、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表しました。企業と従業員が、副業・兼業にあたってどんなことに留意すべきかが、まとめられています。
「働き方改革実行計画」
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/20170328/05.pdf
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdf
ガイドラインと同時に、企業の就業規則のひな型「モデル就業規則」が改正されました。労働者の遵守事項で「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定が削除され、副業・兼業については次の規定が新設されました。
「モデル就業規則」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192888.pdf
第14章第67条
第1項 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
第2項 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
第3項 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
(1)労務提供上の支障がある場合
(2)企業秘密が漏洩する場合
(3)会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
(4)競業により、企業の利益を害する場合
第1項 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
第2項 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
第3項 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
(1)労務提供上の支障がある場合
(2)企業秘密が漏洩する場合
(3)会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
(4)競業により、企業の利益を害する場合
企業で働く人が気になるのは第3項で挙げられている4つの事項でしょう。そのうち(4)は「競業避止義務」または「利益相反の禁止」と言い、就業規則を改正した企業は必ずと言っていいほど同趣旨の文言を加えています。
本業と競合する副業はいけないという判例
では、「利益相反(競業)にあたる副業」とは、具体的にはどんなことでしょうか?
厚生労働省はモデル就業規則の説明で、競業避止をめぐり社員が敗訴した判例(1999年5月28日、東京地裁判決)を挙げています。
厚生労働省はモデル就業規則の説明で、競業避止をめぐり社員が敗訴した判例(1999年5月28日、東京地裁判決)を挙げています。
ある輸入商社の食糧部門の社員は在職中、勤務先に無断で会社を設立し、外国企業との間で食品原材料などを輸入する代理店契約を締結しました。退職・独立するつもりだったようですが、裁判所は在職中の競業会社設立は「労働契約上の競業避止義務に反する」としました。判決では、社員は会社の正当な利益を不当に侵害してはならないという付随的な義務を負う、とも言っています。この判決は副業が利益相反(競業)になってしまう典型的なケースとして、よく引用されています。
会社に届け出ず無断だったこと、代理店契約を結んだ外国企業とのコネクションが、本業である商社の看板を背負って築いてきたことも、裁判官の心証を悪くしたようです。
それ以外に挙げられた判例を見ると、私立大学の教授が副業で語学学校の講師をしたケースは教授勝訴で、運輸会社の管理職が競合他社の取締役に名前を貸したケースは、経営に関与しなくても管理職敗訴でした。大学と語学学校は競業関係ではなく、同業種のライバル会社は競業関係と解釈されています。
それ以外に挙げられた判例を見ると、私立大学の教授が副業で語学学校の講師をしたケースは教授勝訴で、運輸会社の管理職が競合他社の取締役に名前を貸したケースは、経営に関与しなくても管理職敗訴でした。大学と語学学校は競業関係ではなく、同業種のライバル会社は競業関係と解釈されています。
その副業は白? 黒? グレーゾーン?
「会社は副業OKになったが、こんな副業、してもいいのだろうか?」と悩んでいる人がいるかもしれません。厚生労働省のガイドラインやモデル就業規則、判例をもとに「利益相反の禁止(競業避止)」の観点でまとめると、次のようになります。
【黒(アウト)になりそうなケース】
明らかに勤務先のライバル会社や、部品の調達などで利害関係がある取引先で勤務したり、本業で得た資格、知識、ノウハウ、顧客情報や人脈を相当程度活用して副業をする。勤務先のライバル企業が主催するイベントに講師として出演し、業界の裏話などを話す(守秘義務にも抵触しかねない)。
明らかに勤務先のライバル会社や、部品の調達などで利害関係がある取引先で勤務したり、本業で得た資格、知識、ノウハウ、顧客情報や人脈を相当程度活用して副業をする。勤務先のライバル企業が主催するイベントに講師として出演し、業界の裏話などを話す(守秘義務にも抵触しかねない)。
【白(セーフ)ですみそうなケース】
勤務先とのライバル関係がないか、あっても接点が小さい会社や、勤務先との取引の利害関係がほとんどない会社で勤務したり、勤務先とほとんど無縁な業種で事業を立ち上げる。勤務先のライバル企業が主催するイベントに出演し、音楽を演奏する。
勤務先とのライバル関係がないか、あっても接点が小さい会社や、勤務先との取引の利害関係がほとんどない会社で勤務したり、勤務先とほとんど無縁な業種で事業を立ち上げる。勤務先のライバル企業が主催するイベントに出演し、音楽を演奏する。
【灰色(グレーゾーン)のケース】
副業で勤務先とはほとんど無縁な業種の会社を立ち上げ、その取締役になっている。勤務先のライバル企業がスポンサーで資本関係がある。出資額に応じて配当を出したり、人材を受け入れたりしている。
副業で勤務先とはほとんど無縁な業種の会社を立ち上げ、その取締役になっている。勤務先のライバル企業がスポンサーで資本関係がある。出資額に応じて配当を出したり、人材を受け入れたりしている。
もちろん、就業規則に定められた勤務先への届出を怠って無断で副業をしたら、白でも灰色でも黒になってしまいます。副業のせいで本業に支障が出るようでは明らかにまずいですが、副業の出張目的で勤務先で有給休暇をとったり、職場で副業で稼いでいる話をして他の社員を誘うのも、感心しません。副業はくれぐれも節度を守って、やってください。