2018.3.16
「………すまない」
「いえ、いいの。でもその考えも独りよがりだと気づいたの。今回のことで私は考え直した。私たちがそれぞれわがままだったの。愛子にとっては、そんなことはどうでもよくて、私たちが仲良くなることが彼女にとって、一番大事だったの。私たちがそれぞれ勝手を言ってたの。あなたは、お金を家に入れれば、それでいいんだろう、と思っていたし。私は、お金さえ入れれば、それでいいと思っているの?とあなたに腹を立てていた。
私たちが離婚すると愛子に言った時、あの娘は何も言わなかったわ。でも、名前を変えることを頑なに拒んだの。頑固なところはあなた譲りね。あの娘の父親を奪う権利は私にはなかった。
私たちのわがままで、あの娘をこれ以上、苦しめるのはやめましょう………」
私たちが離婚すると愛子に言った時、あの娘は何も言わなかったわ。でも、名前を変えることを頑なに拒んだの。頑固なところはあなた譲りね。あの娘の父親を奪う権利は私にはなかった。
私たちのわがままで、あの娘をこれ以上、苦しめるのはやめましょう………」
妻の言葉は最後は鳴咽となって、廊下に鳴り響いた。
「わかった……」
伝えたい想いが後から後から溢れてきて、胸が詰まった。僕もそう伝えるのが精一杯だった。
*
バタン。
手術室の扉が開いたとき、医者に僕らはどう見えたのだろう。
いるはずのない父親がそこにいて、母親は泣きはらした顔をしている。
手術室の扉が開いたとき、医者に僕らはどう見えたのだろう。
いるはずのない父親がそこにいて、母親は泣きはらした顔をしている。
若い担当医師は僕らに黙礼だけして、手術着を着替えに行った。
半開きのドアの向こうには先ほど手術を終えたばかりの愛子の姿がかろうじて見えた。
半開きのドアの向こうには先ほど手術を終えたばかりの愛子の姿がかろうじて見えた。
手術室から移動ベッドに乗って、病室に移るとき、愛子の顔を見た。
まだ麻酔が効いているようで愛子は目を閉じている。
まだ麻酔が効いているようで愛子は目を閉じている。
「愛子、大文夫か? 痛くないか?」
僕は彼女のそばに寄って、声をかけた。静かな病院に声が響いて、すぐ隣にいた看護師に注意されると思ったが、想いよりも先に声が漏れた。
僕は彼女のそばに寄って、声をかけた。静かな病院に声が響いて、すぐ隣にいた看護師に注意されると思ったが、想いよりも先に声が漏れた。
「愛子、すまない……」
すると、彼女はうっすらと目を開き、僕の姿を確認すると優しく微笑んだように見えた。
「愛子、わかるか?お父さんだよ」
「……よかった」
それだけ言うと、愛子はまた目を閉じた。愛子のベッドはそのまま病室へと向かった。
すると、彼女はうっすらと目を開き、僕の姿を確認すると優しく微笑んだように見えた。
「愛子、わかるか?お父さんだよ」
「……よかった」
それだけ言うと、愛子はまた目を閉じた。愛子のベッドはそのまま病室へと向かった。
「今は手術直後ですので、これ以上興奮させると、本人の身体に悪いので、やめてください」
それでも、まだ声をかけようとしていた僕に「他の患者さんの迷惑になるので、これでお引き取りになってください」と看護師は僕を制した。
愛子が去ったあと、病院の廊下で僕と妻は所在なく、佇んでいた。
それでも、まだ声をかけようとしていた僕に「他の患者さんの迷惑になるので、これでお引き取りになってください」と看護師は僕を制した。
愛子が去ったあと、病院の廊下で僕と妻は所在なく、佇んでいた。
「あの…すいません。後藤さんですか?」
そこに受付で手術室の場所を教えてくれた貫禄のある女性看護師がやってきた。
「あの、後藤さんですよね。さっき、あなたにこの手紙を渡して欲しいとご老人にことづかりましたよ」
手には封筒が握られていた。その封筒を受け取ると、表紙には
『後藤英資さまへ ジョーカーより』と書いてあった。
そこに受付で手術室の場所を教えてくれた貫禄のある女性看護師がやってきた。
「あの、後藤さんですよね。さっき、あなたにこの手紙を渡して欲しいとご老人にことづかりましたよ」
手には封筒が握られていた。その封筒を受け取ると、表紙には
『後藤英資さまへ ジョーカーより』と書いてあった。
第37話へ続く
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