STAGE編集部:高橋さんのお仕事を一言で表すと何でしょうか。
僕は「おもちゃクリエイター」としてお仕事をしています。
例えば代表的なものに「民芸スタジアム」というゲームがあります。乙幡啓子さんというクリエイターの方との共作です。発端は乙幡さんが民芸品にハマってるって言いだしたことですね。民芸はそれぞれキャラが立ってるから、対戦ゲームにして、木彫りの熊召喚!とか言わせようって言ってたら、笑いが止まらなくなって。超面白いから作ることにして、丸1年かけて完成したんです。
僕は民芸は面白いなと思いつつも、そんなに重要なことではなかったんです。それより子どもの頃、遊戯王とかポケモンとか、カードゲームの対戦が好きだった大人が、このゲームひとつ買ったら昔好きだったトレーディングカードゲーム風の対戦ができるというところにニーズがあるというのが、僕目線で商品化を目指した理由でした。自分のお子さんと遊んでもいいけど、大人同士でやりたいって人は絶対いると。
一方、乙幡さんは、このゲームは民芸図鑑として面白いし、イケてると考えていて、結果的にはその両方の理由で売れていくのですが。ツイッターでこの遊び面白いよってつぶやいてくれた人も多くて、自分に共感する人がたくさん集まってくれたんだなという感じです。
やりたいことにお金を使う。ゲームで幸せなお金の使い方を教えたい
STAGE編集部:新発売のゲーム「わくわくワーク」は、どのような経緯で生まれたのですか?
もともとは、小学生向け金融経済教育の講座で使っている「ハピプロ」というゲームを商品化できないかと相談を受けたんです。
親子や多くの人で楽しめるようなゲームにしていく方向性で考えている中で、「ハピプロ」が「わくわくワーク」というかたちになりました。
STAGE編集部:「ハピプロ」はお金を使うとハッピーが入ってくるロジックでしたが、そこは変わらず。
そうです。まず理念として、幸せなお金の使い方というのをお子さんに教えたいというのがありました。僕らも子どものとき、お金の使い方なんて考えたことがなくて、欲しいものがあったらお小遣いで買うだけでしたよね。
わくわくワークの元となったハピプロにはお金の使い方や物を売るなどいろんな要素がありましたけど、その中でやっぱり面白いなと思ったのは、職業に就くという部分。自分がなりたい姿、つまり幸せな人生に向かっていくために職業を選ぶというところが面白いと思ったんです。それって人生の本質だけれど、子どもの頃から何になりたいとか仕事が分からなくて漠然としたまま、結局大学3年生ぐらいの間際になってどうしようって考えるという人が多いですよね。でも、やりたいことを見つけられたら人生は楽しい。だから、そのきっかけになるようなゲームにしたいなと思いました。自分が直観的にやりたいこととか欲しいものにお金を使っていたら、なりたい職業が分かるというか、気づきにつながるような「職業診断ゲーム」にしようというコンセプトを立てたわけなんです
STAGE編集部:だから「わくわくワーク」なんですね。お金の要素は、遊んでいるうちになんとなく入ってくると。
お金チップも入っていて、自分が持っているお金とか、もらっていくお金でやりたい体験をしていくんですよ。例えば、僕は理系なので、リアルにプログラミング教室に行ってみたいとか、ロボット工作してみたいとかを選びがちなんですけど、絵を描くとかスポーツするとかもなんとなくやりたい気持ちがあって。いろいろやっていくと職業が選べるようになるんですよ。理系を選んでいくとプログラマーやお医者さんになったりしていくんですが、職業をズバリ言い当てるというより、自分の興味が分かってやりたいことが見えてくるという内容になっています。自分のやりたいことを選んで、それにお金を使っていくと自分が幸せになれる職業に就けて幸せ度が高まる。そうやってお金の使い方を考えようねというゲームです。
STAGE編集部:勝ち負けのゲームではないんですか?
ゲームのルールでは、ハピ(ゲームで幸せの単位)が高かった人が勝ちなんですけれど、その勝ち負けは一番重要なことじゃない。それで取扱説明書には「こんな会話をしてみましょう」「本当にやりたいと思った体験は何ですか?」「就いてみたいなと思った職業はありますか?」などを終わったあとに話し合ったら楽しいですよと書いてあるんです。そこが一番面白いところかなと思います。
ゲームの中で職業カードは1枚ずつしかなく、誰かがなった職業はその回は選べなくなっちゃうんです。なので、全員違う人生を行くわけなんです。また、選べる体験には純粋な「あそびカード」もあって、それを手に入れるとハピはすごく高いけど、職業選択にそんなに寄与しないというしかけもあります。遊ぶ人生でハピを高くとって勝つ人生もありってことで。これからの時代って職業という概念がなくなって、職業に就くということが古くなるかもしれないですよね。自分がやりたいように欲しい体験を集めていった結果、ハピが高くなったりして、そこから気づきがあればいいなと思っています。
目の前の楽しいことを選んでいけば、道は開ける!
STAGE編集部:ゲーム「わくわくワーク」からのメッセージは、好きなことややりたいことにお金を使うといいよ、ということ?
そうです。楽しくお金を使うということです。欲しいものや、やりたいことを選んでいくんですが、やりたいことってすごく難しいと思うんです。この間もうちの親戚が中学生の甥っ子に将来やりたいことを考えろ、って言ってて。でも、子どもにとってはとても難しい。僕自身も高校ぐらいまでなかったし、大学でも具体的な職業までなかったですよ。テレビゲームをしたいとかはありましたけど、人生でやりたいものなんて見つからないですよね。それでもあったら楽しいし、気づいて欲しいと思っているんです。個人的に目の前で楽しいことを選んでいけば道は開けるってメッセージを込めたかったんです。
僕自身、やりたいことがない、人前で喋れない、内気だというコンプレックスがあった中で、大学で自分を変えたくて落語研究部というお笑いサークルに入った。そこで人生にとっては笑いが一番大事だと考えるようになり、これが運命的な出来事になりました。工学部だったので、職業も電機メーカーに行こうと思っていたけれど、誰かを笑わるものづくりがしたいと思って、おもちゃメーカーを選んだんです。
やってみたいなと思ってやったら、人生変わるかもしれません。「わくわくワーク」のゲーム内容に例えると、ポイント高いとかカッコ良さそうだということだけで「音楽教室に行く」の体験カードをGETする、でいいんです。人生でも、ピンときたことをいろいろ体験して、分かればいいなと。
STAGE編集部:自然に体験できるから「学ばせる」と構えなくてもいいんですね。
僕にとって「おもちゃ」というのは割と広義で、遊びや笑いがあれば何でもおもちゃだと考えているんです。いろんな物事の遊び化をするという意味で「おもちゃクリエーター」と名乗っています。
「わくわくワーク」のように、職業診断ゲームを純粋に遊んでいたら、自然と何かを覚えていた、というようなのが好きなんです。民芸のゲームも、ただ白熱した対戦ゲームをしていたら、結果的に全国の民芸を覚えていたというような具合です。勉強ってそんなに好きじゃない人も多いじゃないですか。だからゲームを通して勉強できたらいいよねという話だけど、そこに勉強感があると絶対に子どもは選ばないし、続かない。だから、夢中にやってるうちに勝手に覚えたということをしないといけなくて。「わくわくワーク」ではそれを完璧な形にできたと思っています。
自分の生きたい人生を生きるのに必要なお金を決めておく
STAGE編集部:高橋さん自身はお金に対してどう向かい合っていますか?
僕は投資などは性格的に向いていないのでやらないですが、細かくお金をきちんと把握するのは得意だと思うんです。財テクというより、お金を無駄に使わないとか損しないように分かっておくという現状把握ですかね。
例えば、持っている株が下がったら嫌じゃないですか。気分が下がる可能性があるのが嫌なので。その心配がないんだったらいいんですけど。その時間とか意識がもったいないので、お金のことを考えなくてもよいような状況にしておくのが自分にとっての健康第一を実践するひとつだと思っています。
お金を把握するのが得意とは言いつつも、やらなくていいんだったら他のことをやりたいわけで。いまは小規模の会社を経営して働いていますけど、僕の生きたい人生を生きるためには、お金はいくら必要ってことは自分で決めて分かっているんです。それ以上は、別に多く稼ぐ必要はなくて、最低どれぐらいはちゃんと稼がないといけない、と管理している感じですね。
STAGE編集部:必要な分があればよい。だから、お金の現状把握をきちんとするという。
そうです。たまに起業ってどうなのって聞かれるんですよ。そういうときは、年にお金がどのくらい欲しいかで、やることが全然変わるから、それをまず知るべし、と話すようにしています。持論として。
お金との付き合い方とか増やし方って人それぞれだし、僕にとって結局重要なのは健康と笑いだから。幸せな人生、自分にフィットする生き方をするのにお金は大事です。というより、生き方の一部なんでしょうね。
STAGE編集部:高橋晋平さんにとってお金とは何でしょう?
お金は笑いと健康のために使っていて、使わないと生きていけないものといった感じでしょうか。
僕がお金を使う基準って「どれだけ家族が笑うか」で、それで決めているんです。1回でも多く笑うことが重要と信じて生きているんです。ここに行ったら面白い、これを買ったら面白い、これをやったら面白いという基準で僕はお金を使っている。別にこれが勉強になるから投資しようというようには思わないです。
子どもの習い事とか、考えるじゃないですか。習い事も別に楽しくないんだったらいらないし、なにかのためになるんじゃなくて、どんだけ笑うのかが大事で。笑いはどうして必要かというと健康になるために必要なので。だから、僕にとってお金とは、笑いと健康のためのものということです。
「お金とは、笑いと健康のためのもの(高橋晋平)」