「キャリアアップ」で使うべき意外な機関や制度、活用方法とは?

社会人が自分の「市場価値」を高めようと取り組むキャリアアップ、自分磨きには、雇用保険の教育訓練給付制度や公共図書館のキャリア相談、労働組合のキャリアデザインセンターなど、ちょっと意外な味方もいます。使えるのなら、利用しない手はありません。

2019.10.2

「自分磨き」を応援する制度、機関がある

雇用保険というと「失業した時に手当をくれて生活を保障する制度」、公共図書館というと「本を貸し出している場所」、労働組合というと「賃上げの交渉をしてくれる団体」というのが一般的なイメージだと思いますが、実はそれぞれ、個人がキャリアアップ、自分磨きするのを助けてくれるしくみを用意してくれるようになっています。
1998年(平成10年)度から20年以上続けて実施され、2014年(平成26年)に大拡充されて2017年(平成29年)度までにのべ350万人以上が利用し、知られるようになっているのが「教育訓練給付制度」です。
会社(雇用者)が保険料を負担している雇用保険制度が、会社員(被雇用者)が教育訓練の受講に支払った費用の2割を補助してくれます。目的は働く人の主体的な能力開発、中・長期的なキャリア形成を支援して、雇用の安定、再就職の促進を図る点にあります。
厚生労働大臣が指定した一般教育訓練給付制度の対象は現在約1万4,000講座もあり、簿記や情報処理、英語などの資格取得コースもあれば、自動車教習所での大型二種免許取得コース、専門学校の介護福祉士、看護師、調理師など業務独占資格・名称独占資格の養成課程や、さらにMBA(経営学修士)のような専門職大学院の修士課程まで含まれます。
「パティシエ」「スタイリスト」「ゲームクリエイター」「サッカーの審判」のコースまであります。厚生労働省によって指定されたコースは学校やスクールが「これは教育訓練給付制度の対象です」とPRしています。
支給額は支払った教育訓練経費の20%で、下限は4,000円、上限は10万円です。たとえば20万円を支払ったら修了後に4万円が支給され、自己負担は実質16万円になります。
支給申請手続は受講した本人が修了後1カ月以内に、住所を管轄するハローワークに「雇用保険被保険者証」「教育訓練給付金支給申請書」「教育訓練修了証明書」「領収書」などを提出して申し込みます(マイナンバーの記入が必要です)。実際は学校やスクールが受講中に手続き方法を案内しています。

キャリアアップをアシストする公共図書館

「教育訓練給付金の制度があっても、仕事が忙しくてスクールには通えない」という人でも、独学で資格を取ってキャリアアップを目指したい人はいるでしょう。
その場合、教材費は全額が自己負担になりますが、公共図書館に行ったら資格取得に必要な教材が揃っていて、それを無料で借りて勉強できるかもしれません。中には、住民サービスの一環としてその前の段階の「個人のキャリア相談」にも応じてくれる図書館もあります。
例を挙げると、大阪府立中之島図書館ではビジネス資料室で「資格セミナー」を開催するなど、スキルアップ、キャリアアップを応援しています。横浜市立の南図書館、金沢図書館では、横浜市男女共同参画推進協会「女性としごと応援デスク」所属のキャリアコンサルタントが、女性限定ですが出張キャリア・カウンセリングを行っています。
これは広い意味で公共図書館の「ビジネス支援」の一環で、アメリカでは以前から盛んです。映画の舞台、観光名所としても知られるニューヨーク公共図書館では、そのための各種のセミナーを開催したり、専門司書、リタイアしたビジネスマンがアドバイスしてくれる相談室を設けて、市民の職業生活のキャリア形成や事業の創業をアシストしています。
日本でも2000年(平成12年)に「ビジネス支援図書館推進協議会」が設立され、キャリアアップのサポートも含めた公共図書館でのビジネス支援を盛り上げようとしています。

キャリアデザインセンターのある労働組合

労働組合にも、組合員のキャリアアップ、自己実現を重視して具体的な対策に乗り出しているところがあります。
その代表例が大手電機メーカーの労働組合が加盟する電機連合が設立した「キャリアデザインセンター」です。経験豊かなキャリアカウンセラーが相談室を訪れた組合員からていねいに話を聞いて、今後のキャリア形成について一緒に考えています。
2003年(平成15年)から「電機産業職業アカデミー」も始まっていて、各種の専門的な研修も行っています。
スーパーや食品メーカー、繊維メーカーの労働組合が加盟するUAゼンセン(全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)も、組合員の能力の見える化、能力開発を支援する活動を行っています。
組合員の雇用を守り、賃上げ交渉などを通じて生活の安定を図るのが労働組合の本来の役割ですが、今は組合員がよりよい収入、よりよい生活を目指せるキャリアアップのサポートにも目を向けるようになっています。
このように今は、自分の「市場価値」を高めたいと意欲的な人のキャリアアップ、自分磨きを、雇用保険も、公共図書館も、労働組合も応援してくれます。自分の地元で探してみれば、たとえば大学や、商工会議所のような経済団体もやっているかもしれません。
寺尾淳(Jun Terao)

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。
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