お嬢様ことばで「すみません」は使わない—その「すみません」はどんな意味?

遠い世界のように感じる「お嬢さまことば」。しかし私達が学ぶべき点も多々あります。たとえば何かと便利な「すみません」は、意味が文脈に大きく依存し相手に対する配慮を欠いているため、お嬢さまには禁句なのだとか。お嬢さまことばを通して普段の言語感覚を見つめ直してみませんか。
2018.6.12

便利な多義語の落とし穴

どこか遠い世界のように感じる「お嬢さまことば」。その独特な言い回しに惹かれるのか、1995年に発行されるも廃刊になった『お嬢さまことば速習講座』が、読者の要望に応え改訂版として復刊されました。興味本位で開いてみると、私達の言葉遣いについて示唆に富んだ提言が数多くなされています。
私達一般人の世界で多用される便利な多義語として近年真っ先に思い浮かぶのは、「ヤバい」。10代〜20代の若者の会話に頻繁に登場しますが,意味は肯定的表現から否定的表現まで実に様々です。「すばらしい」「美しい」「見るに堪えない」「おいしい」「まずい」「かっこいい(かわいい)」「都合が悪い」などが「ヤバい」の一言になってしまうのです。あまりに意味が多くて、時に「とにかく肯定的または否定的意味合いで何かの程度が高いらしい」ということしか伝わってこないことも。一言で済ませてしまうがゆえに、多様な語を使い分ければ生じないであろう混乱が生じてしまうのです。
しかし、実は大人もある多義的な言葉を多用しすぎています。それは、「すみません」という言葉。驚くべきことに、お嬢さまは滅多に「すみません」とは言わないのだそうです。

多用しがちな「すみません」の功罪

お嬢さまが「すみません」をほとんど用いない理由は、この言葉の功罪を考えた場合の「罪」にあります。
まず「すみません」の「功」は、第一に多義的な言葉であるがゆえに多様な場面で役立つことです。人に呼びかける時も感謝を表現する時も謝罪をする時も、とりあえず「すみません」と言っておけば相手が文脈に合わせて(あるいは相手の都合の良いように)解釈してくれるのです。
ところが、この多義性こそが「すみません」の「罪」。落とし物を拾ってもらって「すみません」と言われた場合は感謝なのか手数をかけた謝罪なのかわかりません。ただ道ですれ違っただけの相手に「すみません」と言われたら、呼びかけなのか何かの謝罪なのかわからないこともあります。相手に解釈する負担を強いるという点で、相手への配慮を欠いた物言いなのです。
そこで、お嬢さまことばでは「すみません」の代わりに次のように表現します。
●呼びかけ
 ✓ 「よろしいですか」「お願いできますか」
●謝罪
 ✓ 「申し訳ございません」「失礼いたしました」
●感謝
 ✓ 「恐れ入ります」「ありがとう(ございます)」「ありがたく頂戴いたします」
曖昧な言葉で判断を委ねられるよりも、お礼ならはっきり「ありがとう」と言われたほうが嬉しいもの。「すみません」という言葉で自分が何を伝えようとしているのか、改めて考えてみるのも良いかもしれません。

うっかり使ってしまう「耳障りなことば」

『お嬢さまことば速習講座 改訂版』の巻末では、私達が普段何気なく使ってしまう言葉も「耳障りなことば」として挙げられ、言い換え方が紹介されています。
次のリストは、カジュアルな関係や話し言葉で多く用いられる表現。これをビジネスや大人同士の会話で多用すると、子供っぽく感じられたり、配慮に欠けた物言いに思われたりすることもある言葉です。
●面倒くさいので
 ✓ 「時間がとれませんので」「手がかけられませんので」
●だめ
 ✓ 「よろしくない」
●悪い
 ✓ 「よろしくない」「お勧めしない」
●ぐちゃぐちゃ
 ✓ 「すっきりとしていない」
一般人にとっては使いにくい言い換えですが、夏〜秋に便利そうな言葉では、次の言葉があります。
●くさい
 ✓ 「芳しく(かぐわしく)はない」
また、変化の激しい時代にあって「あの人は〜を持っていない」といったこともよく言われますが、これらも言い換えが可能。
●Aさんは〜を持っていない
 ✓ 「お使いにならない」「お持ちにならないご主義なの」
●Aさんは〜ができない
 ✓ 「なさらない」「むしろ、○○の方がお得意なの」
●Aさんは〜を知らない
 ✓ 「関心をお持ちでない」
「あの人はまだ持っていないんだよ」と、なんだかその人が遅れているような評価を含みがちなこれらの言い回し。しかしお嬢さまことばに言い換えてみると、それらがいかに自分中心の物言いであるかがわかります。
お嬢さまではない私達も、彼女たちの言葉を通して日常の言語感覚を見つめ直す良い機会となりそうです。
【参考】
加藤ゑみ子『お嬢さまことば速習講座 改訂版』、ティスカヴァー・トゥエンティワン、2017年

Anshi

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