寝落ちで睡眠の質を上げる!作者も寝落ちする短編小説とは

眠れない夜、睡眠用音楽を聴く人は多いかもしれません。様々な快眠法が試みられる中、寝落ちを誘う物語を書く作家が人気です。本来小説家は読者に寝落ちなどしてほしくないはずなのに、その逆を行く彼女。一体どのような短編小説を書いているのでしょうか。

2018.10.5

寝落ちOK——退屈な小説が歓迎される?

眠らなければならないのに、眠れないという経験を持っている人も多いでしょう。もう就寝時間なのに、ちょっと気分が昂ぶっていたり遅い昼寝をしてしまったり、周囲の音が気になってしまったりして、なかなか眠れない・・・。なんとか眠ろうとして睡眠用音楽を流してくれるアプリを起動することも。
なんとか眠ろうとして小説を読み始める人は少ないかもしれません。普通、小説を読んでいる最中に眠くなると、読解力を疑われたり作品の評価が落ちたりするもの。小説は楽しむために読むのであって、眠るために読むものではありません。むしろ眠くなってしまうことを気にして、眠くならない方法をGoogleで検索するくらいです。
でも「いやむしろこの小説は寝落ちするためにあるんだよ」と言われたらどうでしょうか。実際、世界には寝落ちするための小説を書いている作家がいます。しかも大人気なのだとか。

「眠りを誘う物語」のアプリで執筆する作家

「眠りを誘う物語」を書く人気作家の名前は、フィービー・スミス。専属スリープ・ストーリーテラーという肩書きです。物語は朗読用に書かれ、その朗読はCalm.comの「Calm」というアプリで聞くことが可能。Calmは2017年にAppleでアプリ・ベスト・オブ・ザ・イヤーに選出されました。
フィービー・スミスは、もともと一風変わった場所で睡眠をとってその体験を小説にしてきた作家。あるとき彼女の短編小説が旅行雑誌に掲載され、それを読んだCalmの共同創業者マイケル・アクトン・スミスからオファーを受けました。初めて書いた「眠りを誘う物語」の録音を聞いたときは、作者である彼女自身も寝落ちしてしまったそうです。
「眠りを誘う物語」の執筆では、読者を興奮させるような出来事がどんどん排除されます。通常の小説で好まれるドラマチックな展開も、眠りには邪魔になるからです。
彼女の書く物語は心地よい退屈さをもたらし、聴く人の多くが5分〜10分で寝落ちしてしまうのだとか。たとえば彼女の作品『ブルー・ゴールド』は全部で25分ですから、もし10分で眠ってしまうなら物語の半分も聞いていられないということです。
でも、その心地よい退屈さこそが人気の理由。効果抜群な物語の結末を知りたい人から、「物語をプリントして送ってもらえませんか」というメールを受け取ることすらあるのだそうです。

寝落ちで睡眠の質を高めるポイント

小説で寝落ちするには、いくつかのポイントがあります。
1つめのポイントは、単調であること。単調な刺激は人の注意力を低下させ、時に居眠りを招きます。「眠りを誘う物語」は、それをうまく利用しているのです。単調で退屈な物語にのんびりとした抑揚の少ない声、そして「聞きながら眠ってしまって良い」という安心感。これらが緊張を和らげ、心地よい眠りへと誘ってくれます。
2つめのポイントは、長すぎないこと。気持ちよく眠り始めてそのまま良質な睡眠を得るなら、眠って少し経ったあたりで朗読が静かに終わってくれなければなりません。ずっと朗読が続いてしまっては途中で目が覚めてしまい、睡眠の質が低下しかねません。だからこそ『ブルー・ゴールド』も25分という短い物語なのです。
3つめのポイントは、音を小さめにして30分〜60分のスリープタイマーで音が止まるように設定すること。大きな声がしていると眠れませんし、放っておくと朗読が続いて途中覚醒してしまいます。スリープタイマー付きの朗読サービスではAudibleやaudiobook.jpなどがありますので、自分に合ったものを利用すると良いでしょう。
ちなみに、日本語で聞ける具体的な作品としては夏目漱石の『草枕』がおすすめです。特に冒頭部分は主人公が一人でひたすら山を登っているだけ。筆者の場合、次の登場人物が出てくる前に寝落ちできます。
「眠れない」と慌ててしまうと、かえって眠れないもの。心地よい入眠と良質の睡眠を得るなら、快適な室温に設定して肌触りの良いパジャマに着替え、灯りを消し、退屈な短編小説をぼんやりと静かに聞いておくと良いでしょう。
【参考記事】
ローラ・ベネット、「必ず「寝落ち」できる物語──異色の短編作家が紡ぐ5分で眠くなるストーリーの秘密とは」、ニューズウィーク日本版、2018年07月27日
https://www.newsweekjapan.jp/stories/woman/2018/07/post-21.php
Anshi

Anshi

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