外国人労働者受け入れ拡大 外国人労働者と良好な関係を築く方法とは

カルチャー
「高度外国人材」の予備軍の外国人留学生と受け入れ企業への意識調査では、お互いの意識に食い違いがありました。同僚として心がけたいのは、会社の同化圧力から彼らを守る防波堤になり、相談に乗りながら彼らの優れた部分を引き出すような姿勢でしょう。
2018.12.10
出入国管理法改正で迎える外国人労働者と別に、政府は「高度外国人材」の受け入れも進めています。ビジネスパーソンの同僚になる可能性が高いのは大卒以上で専門性の高い彼らですが、予備軍の留学生の意識と受け入れ企業の意識に食い違いがあります。良い関係を築くにはどうすればいいのでしょうか。

日本企業で「高度外国人材」が増えています

出入国管理法(入管法)が改正され、2019年4月から施行される予定です。新制度では日本語能力や仕事のスキルの試験に合格すれば、「特定技能(1号)」では単身で5年間の就労資格が与えられます。「介護」「建設」のように高い専門性を必要としない単純労働で受け入れの道が開け、人手不足の解消が期待されています。
しかし、ホワイトカラーのビジネスパーソンは単純労働の外国人労働者との接点は多くありません。「職場の同僚」の外国人社員のほとんどは「高度外国人材」だからです。
高度外国人材も出入国管理法で規定されています。学術研究、専門・技術、経営・管理の3分野で優れた能力や資質を持つ外国人で、学歴、年齢、年収、職歴などのポイント加算方式で就労資格が得られます。日本の大学に留学し、卒業後に日本企業に就職した外国人社員は大部分がこの高度外国人材で、正確には「高度専門職1号ロ(高度専門・技術活動)」)の資格で働いています。職種は研究、技術、国際業務、法務、会計、企画、営業など多岐にわたり、中間管理職も含まれます。

「高度専門職1号ロ」は2015年末は1144名、2016年末は2813名でしたが、2017年末は6046名で前年比2.15倍とほぼ倍増しました(法務省「在留資格別在留外国人数の推移」)。
http://www.moj.go.jp/content/001256897.pdf

日本企業では、高度外国人材はすでに珍しい存在ではなく、増え続けています。

高度外国人材と企業との意識のギャップ

日本の大学や大学院で学び日本語技能も習得した外国人留学生は、高度外国人材の予備軍と言えます。労働政策研究・研修機構はその留学生と、留学生を採用した企業を対象に意識調査を行っています(「日本企業における留学生の就労に関する調査」)。
https://www.jil.go.jp/institute/research/2009/057.html

留学生の定着・活躍のための施策について企業側が取り組んでいること、留学生が取り組むべきと考えていることを聞いたところ、「外国人の特性や語学力を生かした配置・育成をする」は留学生59.6%、企業44.7%で、大きな差はありません。「生活面も含めて相談できる体制を社内に整備する」も留学生35.3%、企業26.2%で差は小さく、「学校で学んだ専門性を生かした配置・育成をする」は、留学生16.5%に対し企業33.6%で、企業の期待が勝っています。
しかし、「日本人社員の異文化への理解度を高める」は留学生64.9%に対し企業14.7%、「個人業績・成果を重視した評価・処遇制度を構築する」は留学生35.3%に対し企業15.8%、「外国人向けの研修を実施する」は留学生40.5%に対し企業は4.4%、「短時間の勤務でもキャリア形成できる多様なコースを用意する」は留学生31.0%に対し企業2.8%、「労働時間を短くし仕事と私生活を両立できるようにする」は留学生24.4%に対し企業は0.7%と、意識のギャップの大きさが浮き彫りになっています。特に、政府が推進する「働き方改革」に関係した、短時間勤務のような働き方の多様化、ワークライフバランスでの意識の差が大きくなっています。

同僚は、何を心がければいいのでしょうか?

意識調査の結果に符合するのが、日本企業を去った外国人社員からよく聞かれる「日本人の同僚は親切で優しかったが、日本の会社はそうではなかった」という言葉です。
会社は専門性や外国人ならではの特性、外国語の能力を評価し、同僚も親切に相談に乗ってくれました。しかし「研修では外国人だからといって特別扱いしない」「評価・処遇はわが社のやり方に従ってもらう」「そんな価値観はわが社では許されない」などと同化を強い、同僚も異文化を十分に理解してくれなくて、会社になじめませんでした。
外国人の同僚とそんな不幸な別れ方をしないためには、どうすればいいのでしょうか。 
外国で生まれ育って文化的背景も異なる外国人は、日本語が上達しても日本人に完全に同化できません。もし同僚が会社と同じことを言って同調を求めたら、外国人は立つ瀬がなくなります。同僚はむしろ会社の同化圧力から彼らを守る防波堤の役割を果たすべきで、時には「これは譲歩できない?」とたしなめることも必要でしょう。それには「日本はこうだが、外国ではこうなのか」と相対的に異文化を理解することと、多様性を尊重することが前提条件です。
そして、相談に乗りながら彼らの優れた部分を引き出し、その活用を会社に促して社業に役立てるとともに、手を組んで社内体制を良い方向へもっていきます。働き方改革はいいチャンスです。「○○さんがこう言っています」と外国人社員の名も挙げて働き方改革を提案し実現すれば、彼らも感謝し、この会社にもっと長く勤めようと思うでしょう。
新しいものは異質なものとのせめぎあいから生まれます。優秀な高度外国人材を上手に活用できる企業は、世界に通用する企業になれます。同僚の日本人社員が果たす役割は決して小さくありません。その経験は自分の市場価値を高めることにもつながるはずです。

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。

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