2018.2.9
売り上げは上がらず、葉山との信頼関係も壊れ、新しいマネージャーとして雇っていた男の人件費もついにまかなえず、彼には会社都合で退職してもらいました。彼は葉山の口利きで入社していたので、葉山は、この時決断したんでしょう。リストラをした次の日、葉山は僕の元にやってきました。
「社長、残念ですが、私も辞めさせていただきます。これ以上、あなたと一緒にやっていける自信がありません」
「なぜだ?ここまで一緒にやってきたじゃないか!今が一 番苦しい時なんだ。今、 君に辞められたら、米角には何も残らなくなってしまう」
「なぜだ?ここまで一緒にやってきたじゃないか!今が一 番苦しい時なんだ。今、 君に辞められたら、米角には何も残らなくなってしまう」
「なぜですか?新マネージャーを切ったように人件費がカットできたと考えればいいじゃないですか」
「違う! 君の存在は、金じゃない。ここまで来れたのは、君のおかげだ。君がクリームおにぎりのような斬新なものを作ったからお店は急拡大することができたんだ」
「違う! 君の存在は、金じゃない。ここまで来れたのは、君のおかげだ。君がクリームおにぎりのような斬新なものを作ったからお店は急拡大することができたんだ」
「でも、今は、前のような人気商品ではなくなりました。私の実力不足です」
「また作ればいいじゃないか。君ならまたヒット商品を作れる。それを君に期待したいんだ」
「いえ、新マネージャーはわずか半年で首になりました。彼を連れてきたのは私です。彼に対する私の責任もあります。また、よそで出直すことにします。これまで作ってきたおにぎり用のレシピは、すべて置いていきます。それを元に頑張ってください」
「また作ればいいじゃないか。君ならまたヒット商品を作れる。それを君に期待したいんだ」
「いえ、新マネージャーはわずか半年で首になりました。彼を連れてきたのは私です。彼に対する私の責任もあります。また、よそで出直すことにします。これまで作ってきたおにぎり用のレシピは、すべて置いていきます。それを元に頑張ってください」
「……頼む、この通りだ」
僕は土下座までして 、葉山を引き止めようとしましたが、 もう葉山の決定が覆ることはありませんでした。
そこからは、いろんなことが一気に落ち込みました。
葉山のような人生をかけてきてくれた料理人でさえサポートし続けられなかった僕は、自分の力の限界を知りました。今まで、多くの人に支えられ、数々の幸運に恵まれていたということを思い知りました。あの大谷ですら、僕にとって得難いパートナーだった。削れるコストはどんどんカットしてお店が存続できるようにあらゆる手段を尽くしました。
しかし、新メニューの開発もうまくいかず、葉山が残してくれたクリームおにぎりに頼らざる得ない状況が続きました。
そして、さらに六カ月後、全店舗でクリームおにぎりの廃棄個数が、売上個数を上回ったとき、僕は自分の負けをはっきりと悟りました。新店舗二店舗の閉鎖を決意したのです。
僕には、友人からの借り入れ分も含めて、三〇〇〇万円の借金が残ることになりました。旧店舗の二店舗は、そのまま営業を続けていければよかったのですが、コンビニでのコラボの影響か、クリームおにぎりの人気の落ち込みか、単に値段が高いおにぎり屋というイメージになってしまって、以前ほどの売り上げが伸びないようになり、ほぼ、利益が出なくなってしまいました。
これ以上、続けていても決して上向くことはない。そして、新店舗の後処理で費用もかさみ、翌月の運転資金がショートすることは事前にわかりました。追加でつなぎ資金をさらに借りるか、それとも諦めるか。
僕はまるで夢を見ていたかのようなこの二年半に幕を下ろすことにしました。米角は始まりから二年半後、事実上、倒産したのです。
第32話へ続く
(毎週金曜、7時更新)
via amzn.asia