マルチタスク型の人が優秀という時代はもうすぐ終わるかもしれない

人生の目標達成のために生産性を向上させる̶̶そのためにマルチタスクは有効だと考えられてきました。しかし、シングルタスクの傾向も強まっています。

2017.12.20(2020.2.21更新)
なぜマルチタスクは批判されるのでしょうか。マルチタスクの本当の問題点を掘り下げます。

マルチタスク主義vs シングルタスク主義

私達の日常生活にはこんなにもマルチタスクが溢れています。仕事の会議中にメールをチェックしたり、部下の話を聞きながら書類をチェックしたり、テレビを見ながら家事をしたり、料理をしながら会話をしたり・・・。
一方で、こうしたマルチタスクを批判するシングルタスク主義者もいます。シングルタスクとは、「一度に1つのタスクに集中する」ことで生産性を上げるというもの。コーネル大学ジョンソンスクールで15年以上講義を行い、100以上の企業・団体で指導を行ってきたデボラ・ザックもシングルタスク主義者の一人です。ザックはマルチタスクに以下のような問題点があると指摘しました。

マルチタスクの問題点

・集中力が細切れになり、能率が落ちる
・コンテキストの中にあるはずの情報やタスクを分断してしまう
・マルチタスク状態で気が散っていると、状況の変化に対応する柔軟性も低下する
・人間関係が悪くなる
・生活の質が落ちる
・ADHDの人は対応できない場合が多い
果たして、私達はマルチタスクとシングルタスクのどちらをとるべきなのでしょうか。

現実のマルチタスクは複数のタスクを「同時に」処理してなどいない

マルチタスク主義とシングルタスク主義の主な争点は、マルチタスクが生産性を上げるかどうかという点です。マルチタスク主義者の答えは当然YES。シングルタスク主義者の答えは、基本的にNOです。
実は、マルチタスクが能率を下げるという報告は以前からありました。複数のタスクを同時に処理しているというのは「勘違い」で、実際は1つのタスクからもう1つのタスクへ意識をスイッチしているだけ。マルチタスク状態では頻繁に「タスク・スイッチング」を行なっているために、注意力が分散して能率が下がるというものです。
2011年のReynol JuncoとShelia R.Cottenによる報告では、こうした頻繁なタスク・スイッチングが認知処理能力に大きな負担をかけ、より深い学習を妨げると指摘。グーグル社元CIOであるダグラス・メリルも、会議中のマルチタスクは会議の生産性を下げると言いました。こうしたことから、シングルタスク主義者はマルチタスクの生産性にNOと言うのです。
しかし、以上のような主要な対立点よりももっと注目すべき問題が、マルチタスクにはあります。

マルチタスクの本当の問題は人間関係への悪影響

マルチタスク主義者が周囲の人々からどのように見られているか、意識したことはあるでしょうか。2013年、ハワード大学と南カリフォルニア大学の研究者達によって、会議中の携帯電話の使用についての調査報告が行われました。ビジネスのプロ達を対象とし、フォーマルな会議とランチミーティングのようなインフォーマルな会議で、どのような携帯電話の使用が不適切とされるかを調べたものです。では、早速60%以上のプロ達から「不適切」とされた例を見てみましょう。

会社でのフォーマルな会議で「不適切」なこと

・電話をする(87%)
・メールを出す(84%)
・メールのチェック(76%)
・インターネットの閲覧(75.7%)

社外でのインフォーマルな会議で「不適切」なこと

・メールを出す(66.3%)
・電話をする(61.4%)
・インターネットの閲覧(61.4%)
そして、大部分のプロ達は、会議中の携帯電話の使用のほとんどを不適切と考えていることが明らかになったのです。つまり、たとえあなたが「私は知能を必要とする複数のタスクを同時にこなせる」と自信を持って言える人であったとしても、こうしたプロ達がいる会議でマルチタスクを行うと、「敬意をもっている」とか「信頼できる」といった印象を彼らに与えるのは難しいということです。
マルチタスクの本当の問題は人間関係への悪影響。仕事の相談中に常に他のタスクに意識をいったりきたりさせている上司は、部下からの信頼を得ることは困難ですし、上司が話をしている最中に部下が他の業務をしていれば叱責の対象となってもおかしくありません。
マルチタスクの代表といえば、堀江貴文さんかもしれません。堀江さんは、取材中でも会議中でもかまわずスマホチェックをします。それを「失礼」と批判されても、時間を有効に使っているだけ、と答えが返ってきそうですね。才能ある人のこのような行動は「個性」と認識されます。しかし、一般人が同様の行動をすると風当たりが強いでしょう。

マルチタスク型よりシングルタスク型の人が有利な時代がきた?

あなたが現在、学生だったとしましょう。現在の教育現場で求められるのは、好きなことに対する集中力であったり、得意なことを最大化するといったことなのです。大学のAO入試も、特に秀でたことや一点突破的な才能を評価しようということで生まれています。そしてそのような人物がこれから「有用」とされているようです。これはもしかすると一点集中型の「シングルタスク」型人間の方が有利なのかもしれません。
AI時代、今後はより「人間性」が重視され、アートやクリエイティブな才能の価値が高まっていくと言われています。アーティストのように自分の好きなことに向かい合うシングルタスクに軍配があがりそうです。同時並行的な作業や思考ができることは優れた才能ですが、人間の「マルチタスク」の才能は、AIには及びません。もしかするとマルチタスクはもういらない、といえる時代がやってきたかもしれませんね。
Anshi

Anshi

より充実した素敵な生き方に̶̶一過性のブームに流されない「選ぶ生き方」を掲げ、世の中に氾濫する雑多な情報から本当に役立つものをご紹介しています。
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