あなたの常識が非常識に?モチベーションに頼らない目標達成

あなたの常識を、アップデートしよう。
初めてチームリーダーになって悩む問題の一つがチームのモチベーション維持。変化しやすいモチベーションに頼ってばかりいると非生産的な時間が増えていきます。
2018.1.4
まずは業務の習慣化に注目。「仕組み」と「小さな習慣」で生産性の高い時間を増やしましょう。

「モチベーション」は感情であるがゆえに頼れない

チームリーダーに初めて抜擢されたら、どうやってチームをまとめて生産性を上げていくか頭を抱えてしまうかもしれません。まず目的・目標・優先事項・スケジュールの共有はもちろんのこと、メンバーの性格に合わせたタスクの割り振りや問題解決への助言、具体的な方針決定の能力が必要とされます。そして何より、チームのモチベーションに気を配る必要もある――メンバーのモチベーションが高いとチーム全体の生産性も高くなると言われているからです。ところが実際は、そのモチベーション維持こそが至難の業なのです。
2013年に出版されてから世界で絶賛されたスティーヴン・ガイズの『小さな習慣』は、モチベーションは感情であり、感情であるがゆえに安定しないものだと指摘。モチベーションの効用は認めるものの、モチベーションアップや維持にこだわると「モチベーションがないと何もできない」と考え、怠け癖がつくと警鐘を鳴らします
心理学者であるポール・J・シルヴィアも著書『できる研究者の論文生産術』で、さまざまなことを言い訳にして執筆を後回しにし、気の向いたとき(やる気が出たとき)に一気に執筆するのは非生産的な方法だと批判しました。その生産性の低さは、1990年にボイスが報告した実験結果でも実証されています。

決断力や自制心は消耗される

誰もが「やる気はない。でもやらねばならない」という状況で業務に着手した経験はあるはず。
そうしたモチベーションの低い時に力を発揮するのが意志です。ところが、意志の力は無限ではありません。1日の中で難しい決断をした場合、その決断の後は自制心が低下しやすくなるのです。
心理学では「自我消耗」という言葉で知られています。
自我消耗の原因トップ5は、努力・困難の自覚・否定的感情・主観的な疲れ・血糖値。もしチームリーダーであるあなたが、メンバーの状態をあまり考慮せずに「がんばれ」「やる気を出せ」と叱咤激励し続ければ、それに従おうとする「努力」や反発する「否定的感情」で意志の力はどんどん消耗されていってしまうのです。
来たるべき決断やより難しいタスクのために自我消耗はなるべく避けたい――そこでガイズは、「小さな習慣(mini habits)」を提案しました。

気分に左右されないための第一歩

「小さな習慣」とは、絶対失敗しない、ばかばかしいほどに小さなステップで構成されます。その小ささは、「腕立て伏せ1回」「執筆50ワード」「読書2ページ」というレベル。チーム内のタスクでいえば、「電話1件」「レポート100字」「資料読み2ページ」といったあたりでしょうか。
「こんな小さな目標で、1日に必要な業務がこなせるわけがない」と批判されるのは想像に難くありませんが、実際にやってみると目標を上回る「おまけ」がついてくることが多いのも「小さな習慣」の特徴。つまり、「資料読み2ページ」が「10ページ」まで増えたり、「レポート100字」が「2000字」まで増えたりすることが多いのです。
これがなぜ自我消耗の原因を避けられるかというと、「小さな習慣」には以下のような特徴があるからです。
・簡単だから努力は必要ない
・すぐできるから否定的感情も起こりにくい
・簡単だから「困難の自覚」もない
・すぐできるから疲れを感じることもない
(・血糖値は多少下がるかもしれないが糖分を補えば済む)
習慣化は、無感情にタスクをこなすことを可能にします。無感情にこなせるということは、モチベーションが必要ないということ。つまり、小さなことを習慣化することでモチベーションに頼らないタスク処理が可能となり、意志の力の節約につながるのです。こうしたモチベーションに頼らず習慣化によって生産性を上げることの重要性は、先述したシルヴィアの著書や、本田直之の著書『レバレッジ時間術』『レバレッジ・マネジメント』でも指摘されています。
ちなみに、習慣化に要する日数は「21日」や「30日」と言われることがありますが、実際のところは非常に個人差が大きいことがわかっています。一方で習慣形成の専門家たちは「1度に1つずつ」習慣化することを推奨。けれど、習慣の定着に要する日数が人によって違う上に、1度に1つずつしか身につけられないとしたら、チームが抱えるプロジェクトは途端に遅れ始めてしまうでしょう。これに対して「小さな習慣」であれば、目標がとても小さくて達成するのが非常に簡単だから、1度に複数の習慣づけを行うことが可能です。しかも、1つの目標達成には大抵大きな「おまけ」がついてくる。そういった意味でも、「小さな習慣」は現場向きだといえるでしょう。

「仕組み」化と「小さな習慣」

「小さな習慣」は、チーム内で計画的に取り入れていけば「仕組み」として機能します。特に毎日のルーティンワークで力を発揮するでしょう。ルーティンワークは、単体での所要時間は短いもの。でも、小さなタスクだからと軽く考えていると、あっという間に他の作業を圧迫してしまうし、後回しにすれば業務全体に支障を来すことにもなりかねません。ルーティンワークのような手順や形式を決めやすいものは、チェックリストや基本フォーマットを準備して「小さな習慣」化
していきましょう。
泉正人の『最新「仕組み」仕事術』では、業務効率化のために作成された具体的なチェックリストや提案書のフォーマットが紹介されています。これを「小さな習慣」として取り込む最初の一歩は、「チェックリストを見る」や「フォーマットの項目を1つ埋める」。チェックリストの利点として、泉正人は「努力や気合いも必要なく、ただ淡々とチェックリストの項目に従って、手足を動かすだけで業務が完了してしまう」ことを挙げていますが、その仕組みづくりや仕組みの定着とともに働くのが「小さな習慣」なのです。
「仕組み」化と「小さな習慣」によって業務を細かく分割して習慣化してしまえば、毎日着実に生産性の高い時間と成果を積み重ね、チームの目標を達成することができます。「なんでやらないんだ、やる気を出せ」とメンバーを叱る必要はなくなり、メンバーも「出ないものを出せと言われても困る」と反発しなくて済むようになる。上がらないモチベーションを上げるべく腐心するなんて回りくどいことは、もうやめてしまいましょう。

【参考】
スティーヴン・ガイズ. 田口未和訳. 『小さな習慣』. ダイヤモンド社. 2017
Mini Habits (R). http://minihabits.com/ 2017年12月1日閲覧.
ポール・J・シルヴィア. 髙橋さきの訳. 『できる研究者の論文生産術』. 講談社. 2015
本田直之. 『レバレッジ時間術』. 幻冬舎. 2007
本田直之. 『レバレッジ・マネジメント』. 東洋経済新報社. 2009
泉正人. 『最新「仕組み」仕事術』. ディスカヴァー・トゥエンティワン. 2017