【ビジネス戦略】「ニーズ後追い」は邪道でなく重要な方法

ビジネスではよくニーズを「発掘せよ」「自ら創り出せ」「先取りしてチャンスをつかめ」と言われますが、あえてニーズを後追いするのも戦略の一つです。創造や仕掛けが必要ない分、ムダを省きコストも安くすみます。撤退もしやすくなります。決して「恥ずかしい邪道」ではありません。

2019.2.5

「創造型」「発掘型」「後追い型」の3タイプ

あなたは自ら流行を創り出すタイプですか? 流行を発掘してそれを先取りするタイプですか? それとも流行に後からついていくタイプですか?
流行を自ら創り出したり、先取りしたりするのは「かっこいいこと」で、流行を後から追いかけるのは「かっこわるいこと」だと思うかもしれません。
でも、ファッションや小物や音楽のような趣味の領域ならともかく、ビジネスの世界では消費者のニーズを後から追いかける「かっこわるい」イメージの企業が成功することはよくあります。逆に、ニーズを自ら創り出したり、それを先取りした「かっこいい」イメージの企業が競争に敗れることもあります。
事情通の人が「あのアイデアを最初に考えたのはA社。B社はマネしただけだ」と悪口を言おうと、現状の市場占有率(シェア)がB社75%、A社15%だったら、後追いしたB社が勝者で、最初にアイデアを創り出したA社が敗者。それがビジネスというものです。
大きく分けると、どこにもなかった斬新なアイデアを消費者に提案してニーズを自ら創り出すのが「ニーズ創造型企業」、潜在的なニーズを発掘して消費者に向けて仕掛けていくのが「ニーズ発掘型企業」、すでに顕在化しているニーズを後から追いかけ、改良を加えたり価格を安くしたりして優位に立とうとするのが「ニーズ後追い型企業」です。

「ユニクロ」と「ハニーズ」に、優劣はない

ファッションの「製造小売業(SPA)」業態を例に挙げると、「ユニクロ」(ファーストリテイリング)はニーズ創造型企業、「ハニーズ」(ハニーズホールディングス)はニーズ後追い型企業にあたります。どちらも現在は東証一部上場企業です。
ユニクロの商品と言えば「フリース」や「ヒートテック」が思い浮かぶでしょう。それまでなかったニーズを自ら創り出し、ヒット商品にしました。そのスローガンは「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」です。
一方、ハニーズのスローガンは「高感度・高品質・リーズナブルプライス」です。同業他社の店舗で売れている服を調べて、同じような服を企画し品質は同水準でも価格を少し安くして売場に並べ、小回りよく短い間に売り切って在庫を抱えない、というやり方です。
企業の規模は違いますが、ユニクロの戦略とハニーズの戦略の間に優劣はありません。客層が違い、人によって好き嫌いはあっても、どちらもファッションの製造小売業(SPA)で成功をおさめた企業です。

「後追い戦略」にはこんなメリットがある

どこかの企業の経営者が「わが社もユニクロのようになりたい」と思っても、道は非常に険しいでしょう。「フリース」や「ヒートテック」のヒットの陰では、大小の失敗が繰り返され、試行錯誤の連続に多大な経営資源が費やされ、おびただしいムダが発生していました。もし当たらなければ、ダメージは大きいです。常識を変えるようなニーズ創造型企業になるには、それなりの覚悟が必要です。
では「わが社もハニーズのようになりたい」ではどうでしょう? ユニクロと比べると成功へのハードルは低くなりそうです。
創造や仕掛けでの試行錯誤を避けて「他社で当たっているもの」を選んでそれに似た商品を出せば「狙いを外して失敗するリスク」は小さくなります。他社の商品に見劣りしない品質で、しかも価格が多少安ければ、流行やニーズを後から追いかけるタイプの消費者の心をつかむことができます。ハニーズのようにロットを小さくしてサッと退き、売場に置く期間を短くすれば、在庫のリスクも小さくできます。経営資源の投入はより小さく、ムダはより小さく、そして利益はより多く。つまりコストパフォーマンスが良くなります。
ニーズ後追い型企業には「あれ、流行っているから私も買おう」というニーズ後追い型のお客さんが集まるので、次第に顧客基盤が厚くなって経営が安定していきます。そのニーズ後追い型のお客さんの数は、非常に個性的なニーズ創造型や、感度の高いニーズ先取り型のお客さんの数倍、数十倍存在します。
もちろんニーズ後追い型企業にも、同じことを考えている似たもの同士で競争が激化して利益が確保できなくなる「レッドオーシャン化」のリスクはあります。そこはうまく撤退できるか、時間との勝負になるでしょう。
あなたはニーズ創造型、ニーズ発掘型は「立派な王道」で、ニーズ後追い型は「恥ずかしい邪道」だと思っていませんか? ビジネスをイメージだけで語るのは禁物です。そこには戦略の違いはあっても貴賤はありません。後追いも後追いなりに、創意工夫によって成功を収められる可能性は、大いにあります。
寺尾淳(Jun Terao)

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。
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