なぜ「フランス人は1割しかお嫁に行かない」のに幸せなのか?

カルチャー
今回手にした本のタイトルは『フランス人は1割しかお嫁に行かない』。見た瞬間「それって本当?」と疑いたくなってしまいましたが、2010年の統計によると20代フランス人女性の婚姻率はわずか6.3%。30代を加えても14.75%という数字なのだとか。ですが驚くべきはこのデータだけではありません。フランスではそもそも「嫁に行く」という概念(単語)すら存在せず、恋愛も結婚もかなりフリースタイル。そして事実婚の割合が全カップルの50%にのぼるという、世界でも稀な国なのです。
2018.7.8
この本はそんなフランスで妻、娘とともに30年以上に渡り生活した日本人、柴田久仁夫氏の見聞録。長期にわたるライフ・ルポルタージュとでも表現したくなるような一冊です。日本人がなんとなく「オシャレ」で「憧れる」フランス人の真の姿とは?恋愛をはじめ生活の様々なテーマで「日本とのギャップ」について書かれた驚きの中身に迫りたいと思います。

恋愛に超寛大!日本では考えられない「大統領の愛人騒動」

フランスが日本よりも恋愛に積極的なのはなんとなくイメージできますが、現地で暮らした柴田氏にとって想像以上のものだったそうです。例えば、元大統領のミッテランは大統領の就任直後に愛人の存在について問われ「それが何か?」と平然と答えたのだとか。その後のサルコジ元大統領は略奪愛など3度の結婚や隠し子騒動を報じられ、現在のオランド大統領も事実婚や女優との不倫スキャンダルを報じられています。
しかし驚きなのは、恋愛スキャンダルが話題にはなるものの、大統領の進退に影響したり世間の非難を浴びたりするほどになっていない点です。日本でこんなことがあったら一体どれだけ炎上するのか?想像もつきませんね。そして、そんな恋愛大国のフランスでは結婚の価値観もやはり独特なものでした。

「未婚」ではない「非婚」という選択ができる国!

フランスでは他の先進国と同様に晩婚化が進んでいますが、じつは事実婚状態のカップルが非常に多いのだといいます。その背景には、事実婚カップルに対して法的婚姻関係とほぼ同じレベルの権利を認める制度「パックス」の存在があります。税制、出産、子育てにおいて経済的なハンデなしに家族が持てるのです。
そして驚きなのはこの制度が同性カップルにも認められ、「同性カップルも養子を迎えることができる法律」まで成立したこと。男性カップルがベビーカーを押して歩く光景が街中や公園で見られる時代になったのです。日本では渋谷区など少数の自治体が同性婚を認めたばかりですが、フランスでは結婚どころか子供まで持つことができ、公表されただけで300組近くの同性カップルが実際に養子縁組を許されました。
日本では、少子化が急速に進む中でも子育てを放棄するネグレクトが取り沙汰されていますが、たとえ両親が同性でも、愛されていると感じることの方が重要だというのがフランスが出した答え。この判断から我々日本人が学ぶべきこともあるのではないか?そう感じずにはいられませんでした。

流されないフランス人は「いつもの」が大好き!

恋愛では自由奔放なフランス人ですが唯一、食事に関してはかなり頑固な一面があるのだと言います。例えば、お気に入りの店を見つけたら毎日のように通い、いつもと同じ席でいつものメニューを注文。新たなファストフードの参入は軒並み苦戦し…ミシュランガイド発祥の地にもかかわらず、星を獲得した店にさほど関心がないようなのです。
ですが、そんな光景を長年目の当たりにしてきた柴田氏が驚いたことがあるそうです。それは近年パリで起きている「日本食ブーム」。食に関して頑固な“あのフランス人”がスーパーで日本の食材を求める姿は相当なインパクトがあったのだと言います。フランス人の性格を知ったうえで日本食ブームの話題を知るとより一層誇らしく感じてしまいますね!

気遣いを学ぶ日本、にじみ出るフランス!?

フランスで生まれ育った柴田氏の娘さん曰く、フランスには「道徳」の授業がないのだそうです。そのため、日本では学校で習う「公共マナーを守る」ことや「お年寄りに優しく接する」といった行動は、なんとなく行動として身に付けていくのがフランス流。実際にフランスを訪問した柴田氏の母親は、買い物や普段の生活を通じてフランスはお年寄りに対して優しい国だという強い印象を持ったそうです。
ただし、一方で急いでいる人による「割り込み」はフランスでよく見る光景でもあり、常に人で混雑する東京との単純な比較はできないと思われ、柴田氏も「フランス人さえいなければフランスは最高」と感じてしまうこともしばしばあるのだとか。
日本人が憧れのイメージを持つフランス人。その理由はにじみ出る優しさ(ジェントルマン)と、ときに頑固すぎるほど「自分を持っている」所にあるのかもしれません。
統計データを分析した本とは異なり、実際にフランスで30年暮らした一般人の見聞録という点において本当のフランス、本当のフランス人の姿に触れられたような気がしました。