2019.8.29
マルチタスク能力の正体はタスク・スイッチング?脳に危険で、生産性も低い?
結論から言えば、マルチタスク能力は必ずしも賞賛されるものではなく、むしろ避けるべきものなのです。マルチタスク能力に優れるとされるビジネスパーソンは、複数作業を同時並行でこなせるスーパーマンなどでは決してありません。
米国コーネル大学経営大学院(MBA)の客員教員を15年間以上務め、マネジメントやネットワーキングの専門家であるデボラ・ザック氏などによる脳機能に関する最近の研究によると、彼ら・彼女らはPriorityを決めた上で眼前の一つの作業に集中し、それを順番にこなすこと(タスク・スイッチング)に長けているに過ぎない、とのことです。そもそも、人間の脳はコンピュータとは異なっており、同時並行で処理する作業の数が増えれば、その処理能力は格段に低下してしまいます。
タスク・スイッチングをすると、生産性は一般的に約4割も低下するとのこと。オマケに、脳のオーバーロードを引き起こし、脳内の灰白質を収縮させてしまうリスクも高まるそうで、認知症の原因となる可能性すら否定できません。
人間の脳は、一度に一つのことにしか集中できない特性を本来持っているのですね。米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の神経科学の権威アール・ミラー氏も、人間の脳はマルチタスク能力を上手く発揮するような構造になっていない、という主旨のコメントをされています。
タスク・スイッチングほど効率が悪いものはない?でもなぜかやろうとする?
上で触れたように、一般にマルチタスク能力と言われるものの正体は、タスク・スイッチングに他ならない訳ですが、脳が扱う作業を切り替えるために要する時間は、何も対策をしなければ単純作業で+25%程度、複雑な作業では+100%以上の増加となる、とされる研究も出て来ました。例えば、小さなデスク上でジグソーパズルをやることをイメージしてみてください。
限定されたスペースで別のジグソーパズルをやりたくなれば、それまで手掛けてきたジグソーパズルを一旦バラす必要が生じますね。再び元のジグソーパズルに戻りたければ、現在やっているジグソーパズルをまたもやバラし、元のジグソーパズルを組み直す必要があるのです。このようなことを繰り返していれば、大きな時間・工数のロスが発生してしまうのは自明の理です。当然ながら、生産性は著しく低下します。
タスク・スイッチングをマルチタスク能力と勘違いして繰り返しても、結局は全体として大きな工数を要したり、個々の案件の完成度が低いままだったりするのです。
それにも関わらず、ついつい私たちがタスク・スイッチングに走ってしまいがちなのは、日常2つ以上のことを同時にこなすことに慣れてしまっているからなのです。例えば、車を運転しながらオーディオ・ブックを聴く、歩きながらスマホで会話する、歯を磨きながら動画視聴するなどですね。
これらは、マルチタスク能力の発揮ではありません。なぜなら、片方は無意識で可能な習慣化された動作だからです。言わば、片方は小脳が自動操縦してくれている動作であり、実質はシングルタスク能力の発揮に過ぎない訳なのですね。
マルチタスク能力に頼らず生産性が高い人になる?効率的なタスク・スイッチングを行う?
それでも、プレッシャーに晒された状況下でも高難易度の複数案件を確実に回してゆく「デキるビジネスパーソン」「キャパの大きい人」があなたの周りにいるかも知れません。彼ら・彼女らは、一般的にはマルチタスク能力が高い人だと思われています。
しかし、そのような人物を仔細に観察してみると、彼ら・彼女らは必要な様々な作業(タスク)を整理し、処理するPriority(優先順位)を的確に決定した後、眼前の1つの作業に対し圧倒的集中力で取り組むことを繰り返す、というやり方を採っているものです。このため、会議中にスマホをいじったり、提案書を作成中に別件のメール対応をしたりなどは基本しません。
つまり、マルチタスク能力が高いとされてきた人物ほど、分解した眼前のタスクに集中して取り組み、その後素早く頭を切り換えて、Priority(優先順位)に従って次の作業を確実に処理する、という能力を発揮していることになりますね。このためには、マルチタスク能力で対処しようとする脳の衝動を抑えて、効率の良いタスク・スイッチングができることがポイントになります。
具体的には、意識的に細かく時間を区切って作業する、空いてる会議室に籠もって集中する、スマホはサイレントモードにしておく、PC上のメール・チャットの通知機能はOFFにしておく、メール・チャットは時間を設けて纏めて読んで返信する、視界に入ってくるものを物理的に減らす、デスク上に作業している案件以外の資料などを置かない、社内チャットには今対応できないことを表示させるなどの方策が有効です。