米国の対中国制裁関税が見送り…は織り込み済み
20カ国・地域首脳会議(G20)における米中首脳会談では、米国は中国に対する制裁関税・第4段を先送りし、米中は貿易交渉を継続することが決定されました。
これは、概ね予想通りの結果となりました。というのも、米国にとって制裁関税・第4段の実施が難しいのは、すでに米通商代表部(USTR)が6月17日~25日に開いた公聴会で明らかになっていたからです。
制裁関税・第4弾の計画では、約3,000億ドル分の中国製品(約3800品目)に最大25%の関税を課すとされています。これまでの制裁関税との大きな違いは、中国への輸入依存度が高く代替調達も難しい消費財が全体の4割を占めているということです。
多数の米国企業が制裁関税に反対「商品値上げ避けられぬ」
公聴会では多くの業界・企業が、制裁関税に反対ないし懸念を示しました。IT機器・電化製品・衣類・玩具など対象となる製品を扱う業界団体は、値上げが避けられないとして強く反対を表明しました。とりわけ影響が大きいのは、中国からの輸入依存度が高いIT機器です。実にスマートフォンの8割、ノートパソコンの9割が中国から輸入されているのです。
アップル、アマゾン、インテルなどが加盟する情報技術産業協議会は、「制裁関税でコストが上昇すれば、米国企業の設備投資や研究開発を妨げる」「米国企業のイノベーションを阻害する」と指摘したうえで、IT機器を制裁関税の対象品目から外すように強く要求しました。
IT機器ほどでありませんが、衣類や玩具なども中国からの輸入が5割以上を占めています。小売り最大手のウォルマートでは企業努力が限界に達しつつあるとして、これまで回避してきた値上げが避けられないと公表しました。低価格が売りのディスカウントストア業界では、避けられない値上げが販売減少や業績悪化につながるという懸念が強いとされています。
大統領選の再選を目指すトランプ政権の思惑
さらにトランプ政権にとって想定外だったのは、全米で中小企業の反対が激しくなったということです。生産性が高い米国であっても、中小企業の経営体力はそれほど強くはありません。民間雇用の5割程度を中小企業(従業員500人未満)が占めているなかで、第4弾の制裁が1年以上続けば倒産・廃業せざるをえないと答える中小企業が2割程度いるといわれています。
そのなかでも、中国から製品を輸入することで成り立っている企業の7割程度が小規模企業(従業員20人未満)といわれていますが、これらの企業の多くはトランプ大統領の支持基盤と重なっています。米中首脳会談で制裁関税・第4段の発動を決定したら、来年の大統領選は厳しくなると見られていたというわけです。
米中貿易交渉の決着時期はいつごろ?
そのうえ、著名なエコノミストのなかには、制裁関税・第4弾を実施すれば景気後退に陥る可能性が高いという意見が多かったので、企業の強い反対意見だけでなく、こういったエコノミストの意見もトランプ大統領の先送りの判断に一定の影響を与えたことは間違いないでしょう。
来年11月の大統領選までのスケジュールから判断すれば、トランプ大統領は直前の2020年7-9月期のGDPは何としても3.0%以上の結果を目指したいところです。ですから、米中貿易交渉が決着ないし無期限の棚上げになるのは、来年の前半のどこか(大統領にとっては6月がベストな時期)になるのではないでしょうか。
(お知らせ)私のブログ『経済を読む』においては、経済の流れを分析していることがあるので、ぜひ参考にしてみてください。