2019年3月1日 更新

サブスクリプションサービスの成功・失敗事例 成否を分けるのは?

トヨタが「KINTO」を発表し、いま注目度が高まるサブスクリプション(定額制)サービス。通信サービスや音楽・動画配信から、高級バッグ、化粧品、コンタクトレンズ、紳士服などさまざまな方面に拡大していますが、失敗例もあります。成否を左右するのは何なのでしょうか?

「体験価値」「つながり」「密着度」の三要素

最初に考えるのは「定額制でどんな体験、価値をお客さんに提供できるか」です。もしそれが「安さ」だけなら、赤字を出して挫折します。安さ以外の体験や価値を提供し「ファン」を拡大しなければ意味がありません。
たとえば婦人服はTPOに合わせて「この日はこれを着たい」というニーズがあり、定額制のレンタルでその価値を提供できますが、日常づかいの紳士服にはイベント性は希薄で、ほとんど経済合理性で選ばれる傾向があります。そのため定額制を導入しても「安さ」以外の価値を提供するのが難しいのです。
次に考えるのが顧客との「つながり」です。月ぎめの料金を徴収すると毎月、顧客との接点を持ち価値提案ができるチャンスがあります。しかし料金回収を業者に丸投げして接触をおろそかにすると借りっぱなしの「冷めた関係」になり、チャンスは逃げていきます。バッグの「ラクサス」はスマホの位置情報から顧客が好むブランド店舗を突き止め、そのブランドを提案することまでやっています。
そして最後に物を言うのは顧客との「密着度」です。定額制が目指すゴールは「購入」ですが、顧客が「気に入ったので自分のものにしたい」と所有欲を持てるかどうかは、顧客へのフォローの出来、不出来にかかっています。大変ですが、成功すれば店頭の「一期一会」の接客で販売するのとは違って密着度が高い分、顧客が「ファン」になる可能性が高まります。それは良い口コミが広まり、顧客が新しい顧客を連れてきて売上の拡大に直結するような、うれしい結果にもつながります。
サブスクリプションサービスで結果を残すには、少なくとも目的を明確にし、システムやコールセンターなどバックアップ体制を整えなければなりません。「はやっているから」「競合他社もやっている」と安易に付け焼き刃で導入しても、無残な敗北を喫するでしょう。

寺尾淳(Jun Terao)

本名同じ。経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、現在は「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)などネットメディアを中心に経済・経営、株式投資等に関する執筆活動を続けている。
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